■「#MeToo」運動の負の遺産、「無実の男性が傷つけられている」

 ビシニョーワさんはバレエ界の伝説的存在、リュドミラ・コワリョーワ(Ludmila Kovaleva)氏のレッスンを受け、ワガノワ・アカデミー史上最高の評価を獲得した。常にトップに立ち続けることは、「終わりのない闘い」だと話す。

 旧ソ連崩壊後、最初に欧米諸国でソロとしてのキャリアを築き上げたロシア人ダンサーの一人であるビシニョーワさんは、厳しいことで有名なロシア・バレエ界を生き抜いてきた。だが、閉鎖的といわれるそのバレエ界でも、ハラスメントや虐待を非難する声が上がり始めた今、変革は避けられないと彼女は話す。

 ビシニョーワさんは、ワガノワ・アカデミーで「圧力をかけられたり屈辱を与えられたりしたことは一度もなかった」という。「良い先生たちに恵まれたからかもしれないし、私の強い性格が幸いしたのかもしれない。(でも)規律を守らせることと、屈辱を与えることを一緒にしてはならない。バレエの指導者が踏み越えてはならない一線がある」

 セクハラに関する話になると、ビシニョーワさんはすぐに米国でお気に入りのダンスパートナーだったブラジル人バレエダンサー、マルセロ・ゴメス(Marcelo Gomes)さんを擁護した。ゴメスさんは性的不品行を批判され、昨年12月にABTを退団した。

 ビシニョーワさんは、男性が「自分の権力を悪用する例」には恐怖を感じると話す一方で、「無実の」男性が汚名を着せられていることには動揺を禁じ得ないと話す。

「バレエ界でのこのセクハラ問題は、映画業界でのスキャンダルが相次いだ後に起きた。無実の人々が攻撃されるような多くのケースは見たくない」「こうしたことは、かなり注意深く判断されるべきだ。身体的接触の機会がとても多いバレエ界では特に、非常に薄い氷のようなものです」

(c)AFP/Rana MOUSSAOUI / Fiachra GIBBONS