【10月12日 AFP】英覆面ストリートアーティスト、バンクシー(Banksy)は先週、自作品の一つをオークションでの落札直後にシュレッダーで細断したことで、作品の価値をかえって高めたもようだ。専門家からは、作品が元の価値の2倍になった可能性があるとする見解も出ている。

 バンクシーの絵画「少女と風船(Girl with Balloon)」は、競売大手サザビーズ(Sotheby's)のオークションで、過去のバンクシー作品の最高額に並ぶ104万2000ポンド(約1億5500万円)で落札された直後、額縁の中に仕掛けられたシュレッダーで細断された。バンクシーがどのようにシュレッダーを作動させたのかは分かっていない。

 騒動の後、バンクシーは細断時の様子を撮影した動画をインスタグラム(Instagram)に投稿し、「破壊の衝動は創造の衝動でもある」というパブロ・ピカソ(Pablo Picasso)の言葉を添えた。バンクシーはまた、自作が競売に掛けられた場合に備え、事前にシュレッダーを仕込んでいたと説明している。

 仏美術専門誌アルトンシオン(Artension)のミカエル・フォージュール(Mikael Faujour)氏は、「バンクシーは自作を破壊することで買い手の資産家たちに損をさせるつもりだったかもしれないが、それは見込み違いだ」と指摘。「この破壊行為の後に残ったものには、新たな評価と、さらなる金銭的価値がつく」と述べた。

 美術品市場調査会社アートプライス(Artprice)のティエリ・エルマン(Thierry Ehrmann)最高経営責任者(CEO)も、今回の破壊行為により作品の価値が高まったとみる。同CEOは、細断後の「少女と風船」には「200万ユーロ(約2億6000万円)以上」の価値があるかもしれないとの見方を示した。

 仏パリの競売会社アールキュリアル(Artcurial)の専門家、アルノー・オリブー(Arnaud Oliveux)氏は、バンクシーは作品全体を破壊しないように配慮していたと指摘。細断が部分的にとどまったために、「ソーシャルメディア上でのバズ(ざわめき)からの勢いを得て、別の何かになる」と同時に、「象徴的なアート作品」としての風格が備わったと述べた。

 サザビーズは11日、細断後の作品が「愛はごみ箱の中に(Love is in the Bin)」に改称され、バンクシーの代理として作品の認証を担う団体「ペスト・コントロール(Pest Control)」の認証を受けたと発表。

 サザビーズによると、買い手はオークションでの落札価格で作品を購入することを決めた。落札者は匿名だが、欧州の収集家の女性で、同社の常連客とされる。

 サザビーズは落札者のコメントとして、「先週に落札が決まり、作品が細断された時、初めはショックを受けたが、美術史のかけらが自分のものになることに、少しずつ気付き始めた」との言葉を紹介している。(c)AFP/Jean-Louis DE LA VAISSIERE