■韓国企業に前例

 専門家には、「前例」として、韓国の大手財閥、ロッテ(Lotte)グループへの仕打ちを挙げる向きもある。

 ロッテは米軍の最新鋭迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」の配備場所として、自社が所有する土地を提供。これが中国政府を激怒させ、「安全性の問題」という名目で中国国内で多数の店舗が閉鎖に追い込まれた。ロッテは今年、中国国内の多くの店舗を売却している。

 米企業の中でも、ファストフード大手のマクドナルド(McDonald's)や、自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)、フォード・モーター(Ford Motor)などは、中国政府はたたくのをためらうかもしれない。これらの企業は合弁事業を行っている国営企業との利害関係が深いからだ。

 だがITの巨人アップル(Apple)やコーヒーチェーン大手のスターバックス(Starbucks)、スポーツ用品大手のナイキ(Nike)といった米企業を標的にする場合は、中国企業への自傷的被害をある程度回避できる可能性がある。

▽製品ボイコット

 中国の国営メディアは日本や韓国との外交に関してはたけだけしい主張をしてきたが、反米感情をあおり立てる論調は控えてきた。

 しかし、中国社会科学院(CASS)米国研究所(Institute of American Studies)のウー・バイイ(Wu Baiyi)氏は「中国の一般市民は国際問題を注視している」と指摘。中国の民衆がいつまで冷静さを保てるかは分からないとした上で「13億人の中国人の心が米国人に傷つけられれば、修復は非常に困難だ。それこそまさに私が懸念していることだ」と警鐘を鳴らす。

▽留学生、観光客

 ウー氏はさらに「中国の親は子どもを米国に留学させたいと思ってきたが、米国がこうした態度を取り続けるのであれば、留学先を英国やドイツ、さらにブラジルやインドに変えることもあり得る」と話す。

 米国に留学する中国人の数は毎年およそ35万人に上り、米国の一部の大学にとっては重要な収入源となっている。

 中国からは毎年、大勢の観光客も米国を訪れており、高級ショッピング街「ロデオドライブ(Rodeo Drive)」やラスベガスのスロットマシンで散財している。

 これも韓国との関係が冷え込んだ時に起きたことだが、中国はすぐにでも団体旅行を禁止し、大勢の中国人観光客に渡航をやめさせることができる。

▽行政手続き

 米半導体大手クアルコム(Qualcomm)は今夏、中国の独占禁止当局による承認が遅れたため、オランダの同業大手NXPの買収断念に追い込まれた。

 クアルコムは米中の貿易摩擦の犠牲となったと広く考えられている。この一件は中国の巨大市場が、国際的な合併・買収の行方も左右できる力を持つことを示した。

 中国は今年、外国企業に国内銀行の株式の過半数の取得を認める開放政策を発表。専門家によると、米中の対立が深まれば、米国の株主は認可・承認手続きで最も後回しにされる可能性があるという。

 中国で活動する米企業に対してはすでに監視の目が厳しくなっている。在中米商工会議所(American Chamber of Commerce)が今月行った調査によると、中国に拠点を置く米企業の27%が当局による検査が増えたと答え、規制監視が強まったと答えた企業は19%に上った。また、23%の企業が通関手続きが遅くなっていると回答した。

 同会議所のウィリアム・ザリト(William Zarit)氏は、ホワイトハウス(White House)は次の制裁関税で中国が音を上げると考えているようだと前置きした上で「だが、その見通しは中国の報復能力を過小評価している恐れがある」とくぎを刺す。

▽米国債、人民元

 中国は米国債を1兆2000億ドル(約135兆円)近く保有し、国別の保有高でトップとなっている。とはいえ、その一部を売却すれば、結果として自国の損失として跳ね返ってくる。

 中国の通貨、人民元の切り下げについても同じことが言える。それによって関税の影響を相殺できる可能性はあるが、中国の指導部は資本逃避は望まないだろうというのが専門家の見方だ。(c)AFP