【8月18日 AFP】韓国ソウルのある女性会社員が性的暴行の被害を警察に届け出ると、相手は名誉毀損(きそん)の法律を盾にさまざまな訴えを起こしてきた──。これが意味するのは、同国では真実が必ずしも防御策として機能するとは限らないということだ。

 身の安全のため「D」とだけ名乗ることを希望したこの女性は、AFPの取材に「彼は、次から次へと、さまざまな理由で私を訴えてきた。名誉毀損、侮辱、偽証、脅迫、そしてセクシュアルハラスメント(性的嫌がらせ)まで」と話し、そして「何か月も、食べ物がのどを通らなかった。飲み物を口に入れることも眠ることもままならず。沼にはまって、抜け出せないようなな感覚に陥った」とその時の状況を説明した。

 その後、相手の男は強姦罪で有罪となり、実刑2年の判決を言い渡された。一方、Dさんへの訴えはすべて取り下げられた。

 だがDさんが体験した法的な「泥沼」は、韓国では珍しいことではない。この国では法律によって名誉毀損は犯罪となり、真実を話したことで他者の社会的評判に傷がつけば、それ自体が罪と見なされることもある。

 韓国では、性的虐待の容疑者が相手に沈黙を強いるか訴えを取り下げさせるために、逆に裁判を起こそうとするケースが後を絶たない。

 警察に被害届を出すこと自体は名誉毀損には当たらないが、被害者が公に訴え出ることで名誉毀損となる恐れがある。警察や検察によってケースが取り下げられるか、または被告が無罪となった場合、今度は冤罪(えんざい)にあたるとして、被害者側が訴追されることも考えられるのだ。

 韓国女性弁護士協会(Korean Women Lawyers Association)のソ・ヘジン(Seo Hye-Jin)氏は、「制度全体が女性を萎縮させてしまっている」と述べ、こうした状況が、性的虐待の容疑者にいわゆる「リベンジ訴訟」を起こさせる格好の材料を提供するものとなっており、多くの女性が泣き寝入りを余儀なくされていると指摘する。法律の専門家や女性団体の多くもこれと同様の見解を示している。