■「少女虐待のチャンスを与えてはだめ」

 キムさんは、テニスの全国大会の女子ダブルスで銅メダルを獲得したこともあるが、いつもコートの上で選手たちの激しい息遣いを耳にすると、虐待を受けていたコーチのことを思い出し、吐き気を催していたという。

 それでもテニスを続けていたところ、2年前、あるトーナメントで元コーチと鉢合わせし、自分は殺されるんだろうと思っていた子どものときの心の傷と悪夢がよみがえった。

「私をレイプした男が、何事もなかったかのように10年以上も若いテニス選手たちのコーチを続けているのを見てぞっとした」とキムさん。

「これ以上、小さい女の子たちを虐待するチャンスをあいつに与えてはだめだと思った」

 キムさんは元コーチを刑事告訴し、相手はその後、起訴された。友人4人が自分たちが元コーチに受けていた虐待について証言し、キムさん自身も証言台に立った。だが、元コーチとの対面が耐えられず、原告の権利を行使して元コーチには法廷から出て行ってもらったという。

 昨年10月、キムさんは法廷のすぐ外で元コーチが強姦致傷罪で禁錮10年の判決を言い渡されるのを聞いていた。「私は泣きに泣きました。悲しみから幸福感まであらゆる感情が一気に襲ってきて」と、その時のことを振り返った。

 競技生活から引退したキムさんは現在、市営体育館で子どもたちにテニスを教えている。

「子どもたちが笑ったりテニスを楽しんだりしている姿を見ると、癒やされるのです」と話し、「子どもたちには幸せなアスリートになってもらいたい。私とは違って」と続けた。

「オリンピックでメダルを獲得し、スター選手になったとしても、そこにたどり着くために(指導者に)ずっと殴られ、虐待され続けないといけないとしたら、何の意味があるのでしょう?」 (c)AFP/Jung Hawon