【7月20日 AFP】ケニア西部にある一風変わった皮なめし工場の床を埋め尽くすのは魚。その生臭い魚の山を前にナイフを研ぐ女性たち。

 39歳の工業化学者、ニュートン・オウィーノ(Newton Owino)によって設立された「Alisom Products」。ここは魚の皮とその他の部位を切り離し、その皮をハンドバッグや財布、靴、帽子やジャケットを作るための革へと変身させるためになめし加工をする会社だ。

 ビクトリア湖(Lake Victoria)に面するキスム(Kisumu)は漁業の街。街でよく食べられているのは焼いたティラピアやナイルパーチなどで、切り身に加工した魚を周辺地域や世界中に輸出している。

 しかし、この作業で出る廃棄部位にもオウィーノはビジネスチャンスを見出した。

 魚加工では年間約15万トンもの廃棄部位が生産され、その内80%がそのまま廃棄される。この現状にオウィーノと12人の従業員が代替案を提示した。

「私のここでの主要ビジネスは、魚の皮を革へと変身させること」と作業内を歩き回るオウィーノは話す。「ここら辺には素材がたっぷりとありますから」

ケニア・キスムにある魚皮のなめし工場で作業する男性(2018年6月11日撮影)。(c)AFP PHOTO / TONY KARUMBA

 毎日、自転車に乗った多くの配達員が漁師やレストラン、工場などから、魚の皮を詰め込んだ袋をオウィーノの工場に持ち込む。工場では従業員が、ハエがたかる魚の皮から残った身を取り除き、まるで洗濯物を干すかのように、魚の皮を乾かすために木の棒にそれらを干す。おなかを空かせた鳥がつつきに来ることもある。

 その後、魚の皮はハンドル付きの錆びたドラム缶に詰められ、パパイヤやアボカドなど現地で採れる果実で作られた酸性の溶液に漬け込まれる。これによって皮がなめされる。

「ドラム・ターンと呼ばれる作業を行います」と器具を力いっぱいに押しながらオウィーノは話す。

■スタイリッシュかつお手頃で独特

 器具から出てきた皮は、濃い色で柔らかく、臭いも少ない。この後うろこを取り除き、引き延ばされ、再度乾燥させられて加工しやすい革へと変身する。

 魚革を使ったサンダルやブーツなどのフットウェアのデザイナーであるフェラ・アチェノ(Fella Atieno)。全作業を機械に頼らず行うアチェノが使用するのは、ペンとはさみ、接着剤と染料だ。

ケニア・キスムにある魚皮のなめし工場で物作りに励む男性(2018年6月11日撮影)。(c)AFP PHOTO / TONY KARUMBA

 出来上がるのは、クロコダイルやヘビ革のようなうろこ模様でありながら、その価格の数分の一の価格で購入できる独特な商品。靴は1500ケニア・シリング(約1700円)、ジャケットは2000ケニア・シリング(約2300円)で販売されている。

 また、オウィーノの下で働く学生であるアラン・オチェン(Allan Ochieng)は、研修後に「数千ものシリング」を稼ぐことを楽しみにしていると語る。

「スラム街に住む人たちの仕事を作るのと同時に、彼らでも購入できる革製品を作ることができます」とオウィーノは言う。

 彼の顧客たちも賛同している。

 オウィーノの工場を訪れていたローレンス・オデロ(Lawrence Odero)は、「魚があるのだから、その魚を誇りに持ち、より経済的に活用するべきだ」と話す。「魚革製の靴を履くときは、このキャップを被ってジャケットも着て、とてもハッピーになれる!とても誇らしいですね」

 この街には他にもなめし工場はあるが、魚の皮を専門とするのはオウィーノだけだ。また、オウィーノのユニークな製品は、薬剤を使用しないなめし加工で生産されている。

 将来の魚皮のなめし職人のために訓練施設や製造学校などを経営し、事業拡大を狙っているとオウィーノは話す。「実は、この加工技術のノウハウを他の人に教えるための学校を設立したいと思っています。技術は、自分たちだけのものではないのです」(c)AFP/ Fred OOKO