■「隣国に敬意を!」

 しかし、こうした考えは一部に限られており、クロアチアの快進撃に対して多くのセルビア人は称賛を送り、時には素直に喜びの声を上げている。セルビア南部ニス(Nis)のある市民は、イングランドに勝利した11日の準決勝後、同国のテレビ局のウェブサイトに「心からおめでとう!ブラボー」と投稿。さらに別の人も「セルビアの選手やサッカー連盟は、クロアチアにサッカーの指導を頼むことになるかもしれない」とコメントしていた。

 旧ユーゴスラビア時代の有名スポーツコメンテーターも、準々決勝の試合では、セルビア人は兄弟のつもりでクロアチアを応援していたと話し、ロシアがクロアチアを倒す姿が見たいと思っていた人間は「偏屈者であり、民族主義者だ」という見解を示していた。

 マケドニアでは、民族主義者がロシアに揺るぎない声援を送る一方で、住民のほとんどはクロアチアを応援している。中でもゾラン・ザエフ(Zoran Zaev)首相は、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でクロアチアのコリンダ・グラバルキタロビッチ(Kolinda Grabar-Kitarovic)大統領と一緒の写真をツイッターに投稿し、「おめでとう、クロアチア。政治、スポーツ、地域、そして世界が今夜一つになった」とつづった。

 約6000人のクロアチア人が住むモンテネグロでは、日刊紙Vijestiに「政治のことはさておき、隣国に敬意を!君たちは旧ユーゴスラビアの誇りだ」という匿名のメッセージが掲載された。また、クロアチア人が人口の15パーセントを占めているボスニア・ヘルツェゴビナでも、クロアチアを応援する声が上がっていた。

 しかし、あるボスニア人政治評論家は状況をもっと深く掘り下げており、クロアチアへの応援によって「血なまぐさい戦争以降、初めてバルカン半島の地域とボスニアが団結した」と述べ、クロアチア人、ボスニア人、そしてセルビア人の「関係が徐々に融和」しつつあると分析している。(c)AFP/Nicolas GAUDICHET/Jovan MATIC