【6月15日 AFP】長年続くドナー臓器の慢性的な不足により、医師らはC型肝炎に感染した臓器を利用する方法について模索を強いられている。米国では「オピオイド・クライシス(鎮痛剤危機)」が原因でC型肝炎が増加傾向にあるが、この感染症は薬で完治できる。

 米国の一部の病院、特に米ボストン(Boston)にある病院では、C型肝炎に感染したドナー臓器を未感染患者に移植する手術をすでに行っている。これらの患者にはC型肝炎ウイルスを除去するための薬剤治療が速やかに実施される。

 今回、カナダ・トロント(Toronto)では、別の医師チームが異なる手法を用いた臨床試験の初期結果を14日に発表した。試験では、C型肝炎に感染したドナーの肺を10人の患者に移植した。

 臨床試験では、感染したドナー肺を滅菌ドームに6時間入れ、ウイルス濃度を低下させるための薬物を用いた後、患者に移植した。医師チームはこの方法で、ドナー肺からC型肝炎ウイルスを完全に取り除くことを期待していたが、実際は85%の低減にとどまった。

 肺移植を受けた患者らは術後、C型肝炎と診断された。それから12週間にわたり「エプクルサ(Epclusa)」の商品名で知られるC型肝炎の複合治療薬「ソホスブビルーベルパタスビル(sofosbuvir-velpatasvir)を用いて治療した。患者らは、治療を開始してから平均で3週間以内に肝炎検査で陰性反応を示した。

 臨床試験を主導した外科医師のマルセロ・サイペル(Marcelo Cypel)氏は、今回の試験結果はドナー候補者を増やすことにつながるため、有望な成果だと指摘している。同氏はトロントで開催の「世界肝炎サミット(Global Hepatitis Summit)」で今回の結果を発表した。

 カナダ・トロント総合病院(Toronto General Hospital)の胸部外科医であるサイペル氏は、AFPの取材に「肺移植の待機患者については、臓器を待機している間の死亡率は約20%だ」と語った。「リスクとメリットを比較すると、ここではメリットの方がはるかに大きい。臓器をより早く手に入れることができるからだ」

 また、こうしたドナー肺については全体的に「品質が極めて高い」傾向にあり、「C型肝炎だけが問題である場合が多い」と、サイペル氏は付け加えた。

 サイペル氏の推算によると、C型肝炎ウイルス陽性の臓器提供を可能にすることで、北米で移植に使用可能な肺の数が年間1000個増加するという。カナダと米国では毎年、合計で約2600回の肺移植が行われている。

 ヘロイン、フェンタニル、鎮痛薬など、オピオイド系薬物の過剰摂取のまん延は、米国での死者数を大きく増加させている。米国の2016年の薬物過剰摂取による死者は4万2000人以上に上った。

 専門家らは、近年のオピオイド危機で、移植に使用可能な臓器の急増も考えられるとしている。(c)AFP