■羽ばたきで試合開始

「われわれはスピードに強いタイのめんどりや美しいレバノンのめんどりをを輸入し、掛け合わせて繁殖している」。縞のTシャツと半ズボンにサンダル履き姿のマハムードさんはこう話した。

 日が暮れると男たちが集まってきて闘鶏場の周りを囲む。えんじ色の低い壁には、過去の試合で戦ったおんどりたちの血しぶきが飛び散っている。

 リングの中に残されたおんどりたちがうずくまり、羽ばたきとともに試合開始となる。おんどりは互いに相手に向かって飛び上がり、円を描いて舞いながら突進してはくちばしでどう猛に相手を刺す。格闘は一方が座り込んだり逃げたりして、もう一方の勝利が宣言されるまで続く。

 13歳のときから闘鶏を育てているファイサルさんは「掛け金は1000~5000シリアポンド(約200円超~1000円超)までさまざま。50万シリアポンド(約11万円)のときもある」と語る。

 闘鶏はシリアのクルド人地域では比較的新しいと、マハムードさんは語る。「この競技はロマの人々によって数十年前にわれわれの地域に入ってきたんだ」

■「ブルース・リー」

 シリアのクルド人は2011年以降の内戦には概して巻き込まれることなく、その間に独自の文化の復活と半自治区の構築に注力した。

 だが彼らはトルコ軍とその同盟関係にあるシリア反体制派による攻撃対象となった。今年、親トルコの部隊がシリアのアフリン(Afrin)からクルド人戦闘組織を放逐したのだ。

 マハムードさんは「シリアは巨大な闘鶏場と化してしまい、そこに外国からの部隊も加わり、都市とその住民を攻撃している」と暗にトルコに言及して語った。

 闘鶏は明らかに人気があるにもかかわらず、賭け事を嫌うクルド社会では今でもタブー視されている。

 自称「闘鶏中毒」のアフマド・シャラビさん(25)は、金銭が目当てだと認めている。トルコと国境を接するシリアの町ダーバシヤ(Derbasiyah)からやってきたシャラビさんは、以前所有していた第一級のおんどり「ブルース・リー」のおかげで勝ちが続いたと語った。「たった10秒もあれば相手を負かしていたからね」と懐かしそうに振り返る。「最後は彼をイラクで売った」とシャラビさん。売り値は2000ドル(約22万円)までつり上がったと述べた。(c)AFP/Delil Souleiman