【5月15日 AFP】手つかずの浜辺や緑豊かな丘陵地、岩の多い海岸線で知られるスコットランドのウルバ島(Isle of Ulva)がこのほど、島民ら5人によって購入されることになった。富豪数人も買収に関心を示していたが、住民らの意向が優先されるかたちとなった。

 ウルバ島は数十年にわたって貴族の一家が所有していた。住民らは、島が売りに出されたことで、これまでの生活が一変することに不安を覚えた。しかし、公的資金や民間から数百口の寄付金を調達するまで領主の権限を制限する新たな「土地改革法」を利用し、5人は売却を差し止めることに成功した。

 住民の一人で、島で唯一のカフェ「ザ・ボートハウス(The Boathouse)」を営むレベッカ・マンローさんはAFPの電話インタビューで、「(合意に達して)ほっとしており、満足している」と語った。マンローさんたちは来月21日から島の新たな所有者になる。購入額は公表されていないものの、売り出し価格は425万ポンド(約6億2500万円)に設定されていた。

 ウルバ島にはかつて800人あまりの島民が暮らしていた。現在は空き家やさびれた教会、そして朽ちかけた廃業ホステルの建物が目につく。島が衰退するきっかけとなったのは、18世紀に領主らが羊を飼うため農民を追い出した「ハイランド・クリアランス(Highland Clearances)」だ。

 スコットランド人の多くは当時の英国植民地に移住している。19世紀には、ウルバ島出身者であるラックラン・マッコーリー(Lachlan Macquarie)が植民地時代のオーストラリアで総督を務めた。

 土地改革法は、スコットランド独立を支持するニコラ・スタージョン(Nicola Sturgeon)行政府首相の政権が承認した。民間の土地資産の売却を一時差し止め、地域社会に購入権を認めている。スコットランドの土地の約半分はわずか約500人が所有し、その多くは城や広大な領地を有する不在貴族領主であるため、この法律は重要な影響を与える。全国宝くじなどの収益金などが充当されているスコットランド土地基金(1000万ポンド=約15億円規模)は、ウルバ島購入などの有意義な事業に年間単位で資金を提供している。

 これまでウルバ島を所有していたジェイミー・ハワード(Jamie Howard)氏は、「欧州北部で有数の美しい私有の島」を手に入れる機会だとして、見込み客に購入話を持ち掛けた。その直後から数人の富豪が下見に訪れたことから、住民らは島を追い出されることへの不安を覚えたという。(c)AFP/Mark MCLAUGHLIN