■「絞首刑になったのは影武者」

 元大統領の墓では、同地域で治安の任務に当たっているシーア派中心の民兵組織「人民動員隊(Hashed al-Shaabi)」連合のメンバーが、霊廟が破壊されたのは、屋根の上にイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」の狙撃兵がいたためイラク軍が空爆したことが理由だと語った。

 ニーダ師は爆撃を目撃していないが、元大統領の墓が「開けられ、爆破された」と信じて疑わない。一方、人民動員隊の治安責任者は「遺体はまだそこにある」と言って譲らなかった。

 だが、人民動員隊の戦闘員の一人は、元大統領の娘で他国に亡命したハラー(Hala)さんが自家用機で遺体をヨルダンまで運んだのではないかとの考えを明らかにした。

 フセイン政権時代に長らく研究者として過ごした大学教授の男性(匿名希望)は、「そんなばかな」と一蹴した。「ハラーは二度とイラクに戻っていない」と同氏。「(遺体は)秘密の場所に運ばれたのかもしれない。誰がどこに持ち去ったかは、誰にも分からない」

 もしそうだとすれば、元大統領の家族は、遺体が運ばれた場所の秘密を他の誰にも明かさないだろう。同氏は、そう付け加えた。

 村の入り口にあるフセイン元大統領の父親の墓は、突然爆破された。その墓と同じ運命をたどった可能性もある。

 だがバグダッド市民の中には、イラクの独裁者は今も生きていると信じる者もいる。「サダムは死んでいない」と、ある男性は話した。「絞首刑になったのは影武者の一人だ」(c)AFP/Ali Choukeir