■失われた子ども時代

 労働に対する給料の支払いもされていなかった。ファティマさんは「月給800ディルハム(約9400円、モロッコの最低賃金の約3分の1)という約束だったけど、一銭ももらっていなかった」と述べ、最初の1年が過ぎ、女主人に未払い分の支払いを求めると、ファティマさんは身分証明書を取り上げられ、家族との連絡を一切禁じられたことを明らかにした。

 どうしようもなくなったファティマさんは、逃げることを決心した。最後は近所に住んでいた若い男性の手助けもあり、ファティマさんはおばと連絡を取ることができた。ようやく地獄から逃れられた瞬間だ。

 モロッコでは何年も議論が続いた末に2016年の夏、ようやく家事手伝いとして働く人々を保護する法律が可決された。この法律が家事手伝い職の最低年齢として定めているのは18歳だ。その他、労働契約や最低賃金、週休1日と年間休日数、それら規則に違反があった場合の罰金なども定められている。政府は社会的進歩における大きな成果だとアピールしている。

 しかしこの法律は、向こう5年間は16~18歳の家事手伝いの雇用は可能としており、人権運動家らはいら立ちを隠せないでいる。また法律の施行に関する評価もほぼない。

 約20年にわたり女性の権利運動を行ってきたNGO「INSAF」で児童労働問題を担当するオマル・サドゥンさんは、「我々にはグローバルな戦略が必要だ。この法律が何か保証をもたらすわけではない。支援やリハビリ、家族を特定するシステムもない」と指摘している。(c)AFP/Hamza MEKOUAR