【3月29日 AFP】極めて保守的な国として知られるパキスタンのニュース番組でこのほど、トランスジェンダー(性別越境者)のキャスターが初めて起用された。これまで社会の周縁に追いやられてきたトランスジェンダーコミュニティーにとって画期的な出来事で、国民も好意的な反応を示している。

 キャスターに抜てきされたのは元モデルのマルビア・マリク(Marvia Malik)さん。23日、パキスタンの文化の中心地ラホール(Lahore)の民間テレビ局コヒヌール(Kohenoor)のニュース番組にデビューした。

 マリクさんはAFPの取材に「家族は受け入れてくれず、認めてもくれなかった」と語り、そうしたあつれきからラホールでもっと良い将来を探そうと思ったと説明した。

「ここではみんなから、家族からは受けたことがないような愛と支援を受けている」と語るマリクさん。番組の放映以降、肯定的な反響が大きくなる一方だという。ソーシャルメディアでも、今回の動きを歓迎する声が広がっている。

 トランスセクシュアル(性別適合手術を希望しているかすでに終えた人)やトランスベスタイト(異性装者)を含む「第3の性」を指すトランスジェンダーの人々は、家父長制が根強いイスラム教国のパキスタンで長らく自分たちの権利のために闘ってきた。

 2009年、パキスタンは第3の性を世界でもいち早く法的に認めた。昨年には初のトランスジェンダー用パスポート(旅券)も発行し、選挙にも複数のトランスジェンダー候補が出馬している。

 とはいえ、トランスジェンダーの人々は依然として社会ののけ者として生活しており、物乞いや売春をせざるを得ない人も多いほか、搾取や差別、暴力の対象にもなっている。

 21歳前後と伝えられるマリクさんは、自身の立場を活用して、人々が差別をせず、互いを何よりもまず人間として扱うように呼び掛けていきたいと話している。(c)AFP