【3月2日 AFP】今年の米アカデミー賞(Academy Awards)にノミネートされた長編アニメーション映画『ゴッホ 最期の手紙(Loving Vincent)』は、全編手描きの油彩絵画で構成された世界初の作品だ。映画では、オランダの巨匠ビンセント・ファン・ゴッホ(Vincent Van Gogh)の独特のスタイルが、全6万5000フレームの中で表現されている。

 ゴッホの早すぎる死に焦点を当てた同作品の製作費は550万ドル(約5億8000万円)。これは長編アニメーションのカテゴリーでオスカーを狙う他4作品のひとつ、米ディズニー(Disney)映画『リメンバー・ミー(COCO)』の30分の1以下だ。

 監督のドロタ・コビエラ(Dorota Kobiela)氏にとって『ゴッホ 最期の手紙』は、同監督が愛してやまない映画と絵画を組み合わせた、7年にわたる楽しい仕事だった。

 コビエラ監督は、AFPの取材に「ゴッホのスタイルはこの映画に最適だった。彼の絵画では彼の人生の詳細のすべて、日常の習慣、家、部屋、友人たちが描かれている」と語った。アカデミー賞授賞式は米カリフォルニア州ロサンゼルスで4日に開催される。

 コビエラ監督と共同監督のヒュー・ウェルチマン(Hugh Welchman)の両氏は、既にオスカー受賞歴がある。彼らの映画制作会社「ブレイクスルー・フィルムス(BreakThru Films)」が手掛けた短編アニメ映画『ピーターと狼(Peter and the Wolf)』が、2008年の短編アニメーション賞に輝いているのだ。これはロシアの作曲家セルゲイ・プロコフィエフ(Sergei Prokofiev)原作のストーリーと音楽をベースにした作品となっている。

「私たちは、この部門でずっと劣勢だ。いつもディズニーやピクサー(Pixar)といった大御所が居座っている。でも、今年はわれわれが番狂わせを起こす気がする」と、コビエラ氏の夫でもあるウェルチマン氏はAFPに語った。

■1日に0.25秒

 5年間のプリプロダクションの後、さらに2年をかけて、世界から集まったアーティスト125人が、コビエラ氏が注意深く見守る前で作品に生命を吹き込んだ。ポーランド北部バルト海に面する港湾都市グダニスク(Gdansk)の広いスタジオでアーティストたちが、俳優たちによって演じられ、撮影されたシーンをベースに絵画を制作した。

 この映画ではゴッホの「星月夜(The Starry Night)」など世界的に有名な絵画もフィーチャーされている。

 93分間の映画を絵画で埋めるのは簡単ではない。コビエラ氏は「仕事のペースはきわめて遅く、1日に0.25秒分しか進まない」と語った。

 映画の1秒には、平均12枚の手書きフレームが使われるが、アーティストらが1日に制作できるフレーム数平均6フレーム。一般的なシーンの0.5秒分だ。

 だがコビエラ氏は、手書きフレームがデジタルアニメーションに勝ると話す。「(デジタル)アニメでは表情の描写に限界があるが、油彩ではより優れた表現も可能になる」

■自殺に関する謎

 ヤツェク・デネル(Jacek Dehnel)氏がオリジナル脚本を手掛けた『ゴッホ 最期の手紙』は、ゴッホの作品とともに、銃による自殺と一般的に考えられているその死について探る内容だ。

 映画では、ゴッホの自殺に納得できず、真実を求めて旅をする若者アルマン・ルーラン(Armand Roulin)の姿が描かれており、観客は彼を通じて絵画の世界へと入り込む。アルマンは、複数のゴッホ作品で描かれている郵便配達人の息子だ。

 映画の制作者らは、既に次の構想を練っているようだ。次作では、スペインの巨匠フランシスコ・デ・ゴヤ(Francisco de Goya)の不穏な絵画作品をベースにホラー映画を撮ることも考えているという。

 映像冒頭は、長編アニメーション映画『ゴッホ 最期の手紙』の予告編。2月21日、2014年12月撮影。(c)AFP