■膨れ上がる開催費用

 招致活動の際に計上した15億ドル(約1600億円)に上乗せする追加予算の要求は、北京市が完璧な冬季五輪を開催するために改めて必死になっていることを示している。北部の人里離れた人口密集地帯はスキー場やスタジアム、そして宿泊施設に変貌しつつあり、水の運搬や人工降雪機の設置だけでも数百万ドルの費用がかかるという。

 競技会場の一つとなっている雲頂スキーリゾート(Genting Ski Resort)の近くで会場整備を行う雪上車のドライバーによると、「雪は100パーセント人工のもの」とされている。新たに建設される競技センターの建設費用は、ボブスレーやリュージュなどの会場が少なくとも2億5700万ドル(約270億円)、アルペンスキーの会場が3億1100万ドル(約325億円)、ノルディック・スキージャンプの会場が2億4600万ドル(約260億円)になると見積もられている。

 そしてAFPが再調査した入札資料の試算によると、これらすべてを合わせると、すでに一部の五輪プロジェクトだけで20億ドル(約2100億円)以上の予算が確保されているという。しかも、この膨大な数字には、3か所の五輪村を結ぶ高速鉄道や高速道路に加え、インさんら農民への補償金などは含まれていない。

 五輪の開催費用が膨れ上がっている現状を受け、2022年大会の開催地招致では欧州の都市が次々と撤退し、国際オリンピック委員会(IOC)としても改革を迫られている。しかし、北京大会は他の国が参考にすべき質素倹約の手本にはならない可能性がある。

 中国国内で巨額の開催費について議論されることはほぼなく、国営メディアは2022年大会を大々的に盛り上げるための報道を続けている。北京市に住むあるスノーボーダーは、雲頂スキーリゾートのロッジで紅茶をすすりながら、「ウインタースポーツの大ファンとして、私は政府の投資を支持する。今回の鉄道プロジェクトは経済的に見合わないかもしれないが、政府には金が有り余っている」と話した。

 インさん一家もまた、土地を手放すことについて気に病んでいる様子はなく、義理の娘は「喜んで国に差し出します」と語った。しかし、人工雪を楽しむつもりはないようで、「ここでは誰もスキーをやりません。滑っているのは北京から来た人たちです」と話した。(c)AFP/Ryan MCMORROW