【4月8日 AFP】昨年、グオ・ボナンさん(29)はスパイスの効いた四川風料理のレストラン「8Peppers」の支店数店舗を上海市内にオープンさせた。しかし、そこにはダイニングテーブルがない。

 テーブルは必要ないのだ。湯気を立てた厨房から市内24キロ圏内の家庭やオフィス、工場へ料理を素早く配達するために、各レストランの出口には配達員がバイクに乗って待機している。

 中国はここ2年ほど、スマートフォンアプリを利用した配食サービスブームに沸いている。このブームは今やおなじみとなった現象をいくつも生んだ。例えば、注文するためにスマートフォンの周りに家族や同僚が集まる姿、配達中のスクーターが混み合った歩道を走り歩行者が散り散りになって逃げる光景、料理が入っていた空のプラスチック容器が山積みになる現象などだ。

 変化はさらに広範囲に及んでいる。飲食店業界は縮小し、家族が家で料理をする頻度は減った。

「上海のような急速に発展している都市では、『時は金なり』です。つまり、人々はもはや調理に時間を費やしたくはないのです」。グオさんは、自分と同じ世代の若者の多くはもはや料理の仕方すら知らないと付け加えた。

 中国の出前サービス大手「餓了麼(Ele.me)」や「美団外売(Meituan Waimai)」といった先行組に対し、「8Peppers」はウェーターの人件費やダイニングスペースの維持費を割くため配達に特化したことが功を奏した。

■自宅で作る手料理の出前プラットフォームも

 一方で、自宅で調理した食事をお腹を空かせた客に届けるサービスも登場し、何百万人もがこれに参加している。

 スー・シャオスウ(Su Xiaosu)さん(34)は数年前に地方の江蘇(Jiangsu)省から嫁ぎ先の上海へやって来たときに苦労した。しかし2016年に当時急成長していたプラットフォーム「回家吃飯(Hui Jia Chi Fan)」(ご飯を食べに家に帰ろうの意)に加わった。同プラットフォームは家庭の台所を配送ネットワークにつなぎ、今では6都市で事業を展開している。

 スーさんは自宅の狭いキッチンで江蘇の名物料理を作り、アパートの階段で青色の制服に身を包んだ餓了麼の配達員に手渡す。今では1日475ドル(約5万円)の売上を上げている。大半の中国人にとって目が飛び出すほどの額だ。今やスーさんは幼い娘のために外国人の家庭教師を雇うことができるし、さらにかつては夢でしかなかったアパート購入も計画している。

 中国のモバイルインターネット研究組織「アイメディアリサーチ(iiMedia Research)」によれば、2017年には200億元(約3400億円)相当の食事が宅配された。ボリビアの国内総生産(GDP)に匹敵する規模だ。今年はさらに20%の増加が見込まれる。

 中国の政府系機関「中国インターネット・ ネットワーク情報センター(CNNIC)」によると、2017年までの2年間で配食サービスの利用者は3倍に増加し、3億4300万人に達した。そしてその圧倒的多数はスマートフォンアプリを利用している。(c)AFP/Dan Martin