【1月28日 AFP】中国の劇的な経済成長を支え、故郷から遠く離れた地であくせく働いてきた出稼ぎ労働者たちが今、お払い箱にされようとしている。当局が主要都市での人口増加を抑制しようとしているからだ。

 リン・フイチンさん(50)は18年前、仕事を求めて北京にやって来た。以来家族とは年に1度しか会わず、残りの時間をほとんどの北京市民がやりたがらない重労働に費やしてきた。

 しかし先月、リンさんはこれまで暮らしてきた北京郊外の村から強制的に退去させられた。2020年までに北京の人口を2300万人に抑える立ち退き計画の犠牲となったのだ。

 リンさんは「家に帰っても、妻や子どもたちを養っていくすべはない」と嘆く。

 中国共産党の機関紙「人民日報(People's Daily)」によると、北京市は「不法」建造物のべ4000万平方メートルを壊す計画だ。対象となるのは、リンさんのような低所得の出稼ぎ労働者の家や店舗がほとんどだ。

 北京に来たばかりのころ、リンさんは友人らと共にお金を貯め、ローンを組んで配達用のトラックを購入。以来、小規模な小売店や業者を顧客とした運送業で生計を立ててきた。しかし市当局が建物を一斉接収し、大勢の人々を寒空の下へと立ち退かせると、そのあおりで運送業も打撃を受けた。「われわれの顧客は私たちと同じような庶民だ」「彼らの中小企業がなくなると、われわれが運ぶ荷物もなくなる。今や失業同然だ」とリンさんは現状を嘆いた。

 昨年11月に発生し、犠牲者19人を出した不法建造物の火災を受け、立ち退き計画の動きはいっそう強まった。街を徹底的にきれいにするためには計画の推進が必要なのだと当局は主張する。

 しかしこの計画では、小売店や小規模製造業などの北京経済の活気に満ちた部分にも影響が及ぶため、好調な電子商取引を支える運送業をはじめ、他部門での混乱も懸念されている。

 別の運送業者のワンさんは、現在使用している物流倉庫を当局に取り壊されたら「もうやめる」と半ばあきらめ気味だ。ワンさんの倉庫には12月中旬、黒文字で「壊」と書かれていた。ワンさんは去年、別の物流拠点2か所を閉鎖し、240人いたスタッフを60人に削減。この場所には12月1日に移転してきたばかりだった。「安定なんてない。明日どうなるかなんて分からない」と目に涙を浮かべながらAFPの取材に話した。