【1月15日 AFP】ギャングがらみの暴力事件が後を絶たない南アフリカで、犬たちが人々をより平和な未来へと導く街がある──。

 南アフリカ南東部クワズール・ナタール(KwaZulu-Natal)州ハウィック(Howick)近郊のポポメニ(Mpophomeni)で暮らすトバニ・ガサさん(20)は数年前、興味本位でペットの子犬をドッグトレーニングの教室に連れて行った。当時はギャングの一員だったが、この時の経験によって自身の生活に劇的な変化が生じたという。

 金曜午後、ポポメニの小学校の校庭に大勢の子どもたちが犬のリードを引いてやって来た。ここでは毎週、犬のトレーニング教室が開催されているのだ。

 現在、自らもトレーナーの一人となったガサさんは、「以前、僕はギャングの一員だった。でもこのプログラムが僕の人生を変えた」と話し、「犬について学び始め、これに集中するようになった。ごろつきの生活を捨てたんだ」とAFPに話した。

 子どもたちに犬の扱い方を教えているのは元教師のエイドリアン・オリビエさんだ。ここで8年前からボランティアで犬の訓練士をしているという。彼女が手探りで始めたレッスンには現在、8歳~15歳までの子どもたち約100人が参加している。ズールー語で「犬と学ぶ」ことを意味する「フンダ・ネンジャ(Funda Nenja)」と名付けられたこのプロジェクトによって、人と犬の間に密接なつながりと信頼がここでは育まれている。

 クリーム色のマットが敷かれた教室の中では、子犬を連れた子どもたちが静かに座ってトレーナーの話にしっかりと耳を傾けている。校庭ではある程度経験を積んだ若者らが、これまでに受けた指導レベルごとにビギナーから上級まで3つのクラスに分かれてさらなるレッスンを受けていた。

 2016年の調査では、南アフリカの子どもの約半数が保護者や教師、親族などから虐待を受けているとのデータが示されている。さらに昨年6月に発表された別の研究報告によると、暴力を振るわれたり、またそうした状況を目の当たりにした子どもたちでは、後に自らが虐待者となるリスクが著しく高まることも分かったという。

■暴力や無理な力は必要ない

 約3か月前から犬の訓練に参加しているブヤニ・デュベ君(11)のおじであるシペシフレ・デュベさんは、最近ブヤニ君の態度に大きな変化が見られるようになったと話す。「子どもが暴力事件に巻き込まれる現代の社会において、このプロジェクトは本当に素晴らしい。子どもたちが街角でたばこを吸うようにならずに済んでいるよ」

 ポポメニの若者らにドッグトレーニングが与える心理的影響については、科学的に分析・評価されている訳ではない。それでも、保護者たちから寄せられるポジティブな意見は、ボランティアスタッフやソーシャルワーカーの耳にも届いている。犬の行動を理解することは、若者らが自分らの行動について理解する手助けになっているのだろう。

「ここで若者に教えているのは、動物とのコミュニケーションに暴力や無理な力を使う必要がないということ。そうした考え方は、普段の生活のなかでも他人と接する上で影響を与えていると思う」とオリビエさんは話す。「犬を叩かずに一緒にやっていくことを学べたら、人とも話し合いを通じて協力していくことが必ずできるはず」

 映像は、2017年9月22日撮影。(c)AFP