■効果薄い従来型の保護活動、直接行動に踏み込む

 パラワンはよくフィリピン最後の生態学的な未開拓地と言われる。国土に残っている森林の大半はパラワンにあり、水辺は多数の希少生物が生息する世界有数のホットスポットとして知られる。観光分野の主要各誌もパラワンを世界で最も美しい島の一つに挙げている。

 だが、この島の豊かな自然を略奪しようとする腐敗した実業家や政治家、治安部隊もパラワンに引き付けられる。当局はそれ自体が腐敗していたり、弱体化したりしているため、それらと闘おうとしない。その空白を埋めようとしているのがパラワンのNGOや市民団体の連合組織、PNNIだ。

 PNNIという企業のような名称は反体制的で資金力のない環境保護団体としては異色だ。寄付をする可能性がある人たちはPNNIの活動は対決姿勢が強すぎるとみなすことが多く、PNNIは慢性的な資金不足に悩まされている。だがチャン氏らは活動を続けられるだけの資金をどうにか集めてきた。

 参加している活動家らは、パラワン島の資源を守る上で従来型の保護活動は激しい汚職を止めるにはほとんど効果がないと考えている。彼らの答えは直接行動だ。市民逮捕(一定の犯罪の現行犯を市民の権限で私人が逮捕すること)についてのあまり知られていない法律と地元コミュニティーの支援を武器に、チェーンソーや掘削用ドリル、毒物を使って魚を捕る漁具などパラワンの環境を破壊する物品を片っ端から没収している。PNNIの創始者で環境問題が専門の弁護士、ボビー・チャン(Bobby Chan)氏によれば、PNNIの立ち上げから20年近くの間に没収したチェーンソーの数は700台を超える。

 パラワンの州都プエルトプリンセサ(Puerto Princesa)にあるPNNI本部の小さな前庭には、100台以上のチェーンソーで作った2階建ての建物ほどの高さのクリスマスツリーが立っていた。他にも伐採した樹木を運ぶための大型ボートや金の採掘現場で没収したソファ大の掘削用ドリル、違法伐採者や密漁者から没収した自家製のライフルや拳銃などが置かれていた。

 没収した道具や機械をこうして大胆に展示しているのは、警備隊は決してひるまないというメッセージを送る意図があるとチャン氏は言う。「大規模な環境犯罪にはなすすべがないという考え方を消し去りたいんだ」