■ファンと悪意ある批評家は紙一重

「ファンダム」と呼ばれるアイドルごとのファン層が原動力となっている芸能界の中で、韓国の多くのスターたちは完璧な外見と完璧な振る舞いを要求されるとてつもないプレッシャーに直面している。

 それぞれのファンダムは非常に組織力が強く、お気に入りスターのために多大な時間と金銭を費やし、ヒットチャートでの上昇を後押しし、ライバルスターに対して攻撃もする。だが、この最も熱狂的なファンたちは、アイドルが自分たちの期待にそぐわなくなると「裏切られた」と捉え、明日には最も悪意のある批評家にもなり得る。

 スターたちはそうした業界を注意深く進んでいかなければならない。薬物使用や飲酒運転はキャリアを破壊するものとみなされ、ソーシャルメディアでの失言から、公の場で笑顔を絶やしたといったことに至るまで、あらゆる振る舞いがその後、何年間も批判の対象にされ得る。

■勝者独り勝ち社会の縮図

 多くのスターはパパラッチやカメラを構えたファンに常に追い回されている。スターの言動の細かいあれこれや日常生活の画像はインターネット上で投稿されたり売買されたりして、世間の目にさらされる。

 芸能評論家のキム・ソンス(Kim Seong-Soo)氏はAFPの取材に「彼らアイドルは金魚鉢の中に住んでいるのと同然で、幸せそうな笑顔と行儀のよい振る舞いを、24時間365日強いられている」と語る。

 有名人にとってそうした問題は世界共通だが、インターネット接続とスマートフォンの普及率で世界の上位に立ち、おまけに右ならえの同調圧力が強い韓国ではそれが増幅されるとキム氏は言う。さらに精神の不調に対する社会的タブーが、有名人を含め多くの人々に、医療の助けを求めることを躊躇(ちゅうちょ)させていると指摘する。

 ジョンヒョンさんの自殺は、人気絶頂の最中にあったKポップミュージシャンとしては珍しい。だが、韓国の芸能界での自殺の例は枚挙にいとまがない。2008年にはインターネット上で中傷を受けていた女優チェ・ジンシル(Choi Jin-Sil)さんが命を絶ち、2010年には日本や中国でも人気のあった俳優のパク・ヨンハ(Park Yong-Ha)さんが、昨年は元俳優のキム・ソンミン(Kim Sung-Min)さんが自殺している。

 だが、有名人の自殺は、教育現場から職場まであらゆる場所でのしのぎを削る激しい競争とセーフティネットの欠如という、韓国の広範な社会問題の縮図にすぎないとキム・ソンス氏は語る。「わが国は勝者が独り勝ちする極端なシステムの社会。負けたら最後、復帰はおろか、生きることさえ難しくなる」(c)AFP/Jung Ha-Won