■安価な解毒剤

 この独特の習慣に2013年、デンマークのコペンハーゲン大学(University of Copenhagen)の研究チームが着目した。ラドウィンさんの持つ抗体を利用して抗毒血清の開発に乗り出したことで、新たな意義が生まれたのだ。

 現在、4人の研究者がフルタイムで携わる抗毒素開発は、年内にも完了する見込みだ。成功すれば、各種ヘビ毒を自ら注射したドナー(提供者)から作られたヒト由来の抗毒素第一号ということになる。これまでの解毒剤には、ウマなどの動物に毒を与えて抗体を採取したものが利用され、数千ドルから高いものでは数万ドルと非常に高価となっていた。

 コペンハーゲン大健康科学医学部のブライアン・ローゼ(Brian Lohse)教授は、開発中の解毒剤は100ドル(約1万円)程度で提供することを目指していると説明。政府や非営利団体(NGO)の協力を得て、いずれは無料の新しい抗毒素を実現したいと語った。

 世界保健機関(WHO)によると、世界では毎年約540万人がヘビにかまれ、8万1000~13万8000人が命を落としているという。

 ローゼ教授はラドウィンさんの研究への貢献度は無視できないと評価しつつも、やはりその習慣は手放しで賛成できるものではないとしている。

 同教授は「科学と、将来ヘビにかまれる犠牲者は恐らく、スティーブさんの努力に感謝するだろうが、自己免疫を自らつけようとするのは非常に危険だ」と指摘し、「スティーブさんは何度か非常に危険な目に遭っている。他の人たちには、まねしないよう強く忠告する」と念を押した。(c)AFP/Pauline FROISSART