■縄張り争いにかき消された和平合意

 麻薬カルテルにとって、トゥマコは密輸のための戦略的ルートというだけではない。この地域には、コロンビア最大のコカの栽培地があり、世界最大のコカイン生産地となっているのだ。麻薬密売経路におけるすべてのネットワークは、この場所に集中している。

 コロンビア政府が1年前にFARCと和平合意を結ぶと、周辺地域でのゲリラ活動の特徴である手りゅう弾による攻撃が減少したと、ある人権団体の代表は言う。

 しかし、大いに期待された平和は長続きしなかった。「私たちが今、心配しているのは、殺人の増加です」と同代表は語った。

 戦闘資金をコカインの密輸で調達していたFARCが武器を置いて立ち去ると、他の武装集団が力の空白を利用して流入し、敵対する集団同士の縄張り争いが始まった。NRCのビスネス氏によると、現在、15もの反社会的集団が、多額の利益がからむ麻薬取引の主導権争いをしているという。

 沿岸部と沖合にある2つの小島にはこうした組織の縄張りを示す、目に見えない境界線が張り巡らされている。一部の地区では夜になって一定の時間を過ぎると、あえて通りを歩こうとする者は一人もいない。

「シウダード2000(Ciudad 2000)」では最近、2つの組織間で抗争が勃発し、週末中続いたため、320世帯が避難を余儀なくされたという。

■「すべての問題の引き金は、コカ」

 NRCによると、トゥマコでは1月~10月までの間に少なくとも2665人が自宅を離れて避難することになった。

 トゥマコ教区のアルヌルフォ・ミナ(Arnulfo Mina)司教代理は、すでに数十件の殺人事件が発生していると訴えた。「ここではコカが、すべての問題の引き金になっている」

 昔から太平洋沿岸部は、コロンビア国内の他の地域からないがしろにされてきたとミナ氏は指摘する。トゥマコでは、人口のおよそ半数が貧困生活を送っており、その大半は安全な飲料水さえも手に入らない。

 ミナ氏は「もしも政府が積極的な社会的投資計画を打ち出すことができなければ、前途にはいっそうの問題が待ち受けているだろう」と語った。

 コロンビアから苦悩の半分を取り除くはずだった和平合意から1年。黒い砂のビーチと沿岸部の絶景から、かつては「太平洋の真珠」として知られたトゥマコは今、地獄の入り口にある楽園のようにみえる。(c)AFP/Florence PANOUSSIAN