婁さんは生命維持の薬を服用し、呼吸器も必要になった。呼吸器だけでも18万元(約300万円)かかった。少なく見積もっても、これまでの治療にかかった費用は200万元(約3300万円)だという。婁さんの母、汪艶梅(Wang Yanmei)さんは、故郷の湖北省で中学校の教師をしていたが、父親には収入がなかった。高額な治療費は、家族に重くのしかかった。迷惑をかけたくないと、婁さんは恋人とも別れ、友人の見舞いもほとんど断るようになった。

 16年10月に病状が悪化し、婁さんは故郷の病院に入院。翌17年1月には昏睡状態に陥り、それを機に集中治療室に運ばれた。恩師や友人たちはインターネット上で募金を募り、1万人以上から55万3000元(約930万円)集まった。しかし治療費の支払いにはそれでもまだ足りなかった。

 今年に入ってから、婁さんは看護師を呼び、口頭で臓器提供の申し出を記録してもらった。「人の命を救えるなら、できるだけすべて提供して欲しい」と話し、このニュースはインターネット上でも多くの人の心を打った。家族は今月、婁さんの臓器提供の承諾書に同意した。また、母の汪さんも娘に倣い、自分の臓器提供も申し出たという。

 北京大学歴史学院職員が、婁さんの入院先である湖北省武漢市(Wuhan)の漢陽医院を訪れ、北京大学「栄誉学生」の証書を家族に手渡した。

 家族によると、婁さんは現在は全身の筋肉が萎縮してしまい、呼吸することも、話すことも、食事をすることもできなくなってしまったという。

 汪さんは、「娘はかわいくて素直で、しっかりした子でした。農家だったおばあちゃんを手伝いまきを拾ってきて火をたくなど、何でも嫌がらずにやっていた。こんな子なら10人育てたとしても苦にならない。いまあの子が病気になってしまい、とてもつらい」と話した。

 娘の臓器提供については、「本人の強い希望です。社会に貢献したいという彼女なりの決断なのだと思います。せっかく博士課程まで進んだのに、卒業も就職も叶わなくなってしまったのが残念だし、申し訳ないと感じているのだと思います。それに、たくさんの人たちから募金をもらい、あの子は社会に恩返しがしたいのだと思います」と話した。

 看護師が記録した婁さんの口頭の遺言によると、「私が死んだら、頭部は医学研究に利用してください。同じ病気で苦しんでいる人たちのために、原因や治療法を研究し役立ててほしい」と話している。(c)東方新報/AFPBB News