■「これが自分だから。ただそれだけ」

 ザイラスは、新たな名前をソーシャルメディアで発表した。この決断は広く称賛されたが、中にはそれをからかう声もあった。

 フィリピンの人気テレビ番組のある司会者は、性別の越境を「気候変動」になぞらえて面白がった。男性誌「エスクァイア(Esquire)」のフィリピン版はザイラスの名前をからかったことで、後に公式に謝罪するまでに追い込まれた。

 公表を前に、ザイラスは乳房を切除し、男性ホルモンの注射を始めた。「このとき初めて、他の人になんと言われようと構わないと思えるようになった。私にとって一番大事なものが、私自身になったのだから」と当時を振り返った。

 それでも、シングルマザーの母親を助けようと小さいころからコンテストなどに参加していたザイラスは、疎遠となった家族に受け入れてもらうおうと必死で努力した。家族については、カトリックの影響を強く受けていると話す。

 ザイラスは、自身の決断に対する家族の反応を苦に、これまでに3回自殺を試みたことがあるという。「いつの日か、流行や浅はかな考え、直らない病気による行動ではないということを家族も分かってくれると思う」

 そして、「これが(本当の)自分だから。ただそれだけ」と自らの決断について語った。

 ザイラスになったことで、2010年のアルバム「シャリース(Charice)」で米ビルボード(Billboard)のトップ10入りを果たした初のアジア人ソロシンガーの声が台無しになったという人もいる。しかし、彼にとって、シャリースはきょうだいなのだ。

「高音を出せるという理由で、シャリースはすばらしい声をしていると言われた。それだけではない。私にとって本当のすばらしい声とは、歌声を聞いた人が心からすてきだと感じる声だ」

 自身のメッセージについては、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)コミュニティーだけに向けたものではないとしたザイラス。「カミングアウトについてだけでなく、自分に自信を持つこと、強さ、痛み、苦悩についても伝えたい」と話した。(c)AFP/Ayee Macaraig