この日のシンポジウムには、引揚者の関係者も多く参加した。主催した城西国際大学の杉林堅次(Kenji Sugibayashi)学長は、父が引揚者だった。杉林学長は「絵の中の人たちはどれも無表情で、同じような顔のはずなのに、1人1人個性があり、ドラマを感じた」とあいさつ。絵の中に当時の父もいたのかもしれないと感慨深く絵を鑑賞したという。

 また、元文化庁長官の青柳正規(Masanori Aoyagi)東京大学名誉教授は、終戦前年の1944年、大連市(Dalian)で生まれた。青柳教授は「まだ1歳か2歳というちっぽけな存在だったので、はっきりとは覚えておりませんが」とした上で、「戦後の混沌と、平和へ移行する接点の時代。現代や未来に伝えていくには、写真だけでもダメ、言葉だけでもダメ、映像だけでも足りない。複雑な感情を凝縮するという特別な表現、それが『芸術』なのではないか」と語った。

 王氏は、人物を描くとき、その人と心の中で対話をするという。「どんな想いなのか、どんな夢を持っているのかなど、真剣に向き合った。今目を閉じても彼らが思い浮かぶ」と話す。7年近くも極限の状況に置かれた生命と向き合って来たので、「しばらく人間は描きたくない」と本音も漏らしたが、今回の展覧会で作品が日本に運ばれることになり、「7年間も向き合ってきた絵を手放すのが少しさみしいと感じた」。

 展覧会は、東京都港区新橋の東京美術倶楽部で10月5日まで。開館時間午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)。入場1000円(高校生以下は無料)。

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