【9月6日 CNS】中国・雲南省(Yunnan)迪慶(Diqing)チベット族自治州のシャングリラ(香格里拉、Shangri-La)独克宗(Dukezong)古城(Gucheng)大仏寺 (Dafosi)の隣に、「シャングリラタンカ画院」がある。タンカ(唐卡)とは、チベット仏教の宗教画を描いた掛け軸。題材内容はチベットの宗教や歴史、文化、社会生活など幅広く、チベット族の「百科事典」とも呼ばれる。画院の主人であるグサンダワ氏は、弟子にタンカ創作を教えている。

 グサンダワ氏は1980年、青海省(Qinghai)同仁県(Tongren)生まれ。この地の「熱貢芸術」(Regong、チベット仏教芸術)はユネスコ無形文化遺産に登録され、タンカはその中の重要な一部分である。

 タンカを制作する旧家に生まれたグサンダワ氏は、幼いころから父親についてタンカ創作を学んだ。当時はタンカの専門学校がなかったため、11歳になると寺院に入りタンカ創作について本格的に勉強を始めた。 

 23歳になったグサンダワ氏は、お釈迦様の物語をタンカにしたかった。「この思いで、私は南アジア旅行の途に踏み出しました」。相次いでネパール、ブータン、インドなどへと、「お釈迦様の足跡を追いかけたのです」。

 さまざまな試練を経て、グサンダワ氏が制作したタンカは人気を集めるようになり、ファンは中国だけでなく米国、南アジア諸国などに世界各地に広がる。

 グサンダワ氏は2007年に中国に戻り、雲南省迪慶にある梅裏(Meili)雪山へ参拝し、飛来寺の壁画を見た。麗江(Lijiang)の白沙(Baisha)古鎮でも壁画をみた。興奮を覚えながらも、自身にはタンカの文化伝承が欠如していることに気が付いたという。独克宗古城で店舗を借りて、「チベットタンカ芸術村」という店名を付けて制作活動を始めた。

 2年後には故郷の青海省に戻り、2人のタンカ絵師を招き、「シャングリラスタジオ」を設立。その間、広東省(Guangdong)の商人が訪れ、200万元(約3360万円)の値段でグサンダワ氏が創作したタンカの釈迦物語を購入したこともあった。

 2010年、雲南省迪慶で開催されたカム(Kham)芸術祭で、当時の党迪慶州委員会のチザラ書記は、グサンダワ氏に画院の創設を提案した。見習いを募集し、迪慶でタンカの伝承に尽力するようにと進言したことで、「シャングリラタンカ画院」が設立された。グサンダワ氏はタンカを創作しながら、見習いも募集した。「ここに来る弟子に対しては指導も食事も無料。特に、貧しい若者や体の不自由な人にも教える」。一時期、画院は非常ににぎやかで、チベット族だけではなく漢民族やフランス人、韓国人の弟子がいたこともある。

 シャングリラ独克宗古城は2014年1月に火災に見舞われ、画院の500枚のタンカも焼失した。全財産を失ったグサンダワ氏は親友と協力して、北京で再開を図ったが、心はずっとシャングリラにあった。2016年になると再び北京からシャングリラに戻り、古城で新築したチベット様式の建物で画院を改めて開いた。昔の弟子たちも噂を聞いて戻ってきた。

 40歳近いグサンダワ氏には子どもが2人いる。子どもにタンカ創作を継承してほしいと思っている。「でも、時代が違うから、より多くの知識を学ぶことによって、タンカに対する理解を深めるかもしれません」

 画院の近くには、チベット式の宿がある。それを指差して、「宿を経営する気はありますか?」と聞いてみた。

「私の人生目標は、タンカ作りだけです」。きっぱりと言い切った。(c)CNS/JCM/AFPBB News