■衝撃と無力感を行動に

 しかし、憎悪のシンボルであるかぎ十字の落書きは一度きりではなかった。2015年の難民危機の際にアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相が国境を開放し、100万人以上の亡命希望者を迎え入れたことに反発するかのように、公園やアパートの建物などに次々とかぎ十字が現れるようになった。

 ドイツの情報機関は今月、政治的動機による犯罪が昨年7%増加したと報告した。その3分の1は「プロパガンダに関する犯罪」だったという。

 オマリ氏の両親は、オマリ氏がまだ母親のおなかの中にいたときにレバノンを脱出し、難民としてドイツに来た。彼は自分が感じた衝撃と無力感を、ドイツの首都に何か足跡を残したいと願う地元の若者たちの助けを借りて、行動に変えたと語る。

「20年以上前に見て以来、かぎ十字は見たことがなかったのに嫌な変化だ」。オマリ氏は1930~40年代のナチスの時代とユダヤ人虐殺に触れ「残念ながらここ何年かで時代の潮流が変わり、僕たちは若い世代に、過去に起こったことがそれほど昔のことではないのだと教えなければならなくなった」と語る。「こういう醜い感情にどう反応するべきか、僕たちは長い間、じっくり考え抜いた。そして、ユーモアと愛で答えればいいという結論にたどり着いたんだ」

「(グラフィティには)可愛いらしく小生意気なイメージを選んでいる。子どもたちが描いたものが多い。グラフィティアーティストでなく初心者でも描けるようにね」。今では近所の住民たちは、かぎ十字を見つけるとグループに連絡してくるようになった。

 オマリ氏は「それほど頻繁に見つかるわけではないが、一つでも見つかれば一大事だ」と語った。2016年5月以降で約20のかぎ十字を描き変えたという。

 ドイツでは、かぎ十字やその他ナチスのシンボルを掲示することは違法だ。だが、それらを自分で処理しようとすることもまた、法律に抵触する。オマリ氏は「その場所の所有者の許可を得ることが大事だ。他人が悪いことをしているからといって、自分も同じようにしていいわけじゃない。僕たちは、誰にも違法なことをしてほしくはない」と説明する。

 グループの活動はソーシャルメディアを通じて他の都市にも広がっている。インスタグラム(Instagram)やフェイスブック(Facebook)、ツイッター(Twitter)ではハッシュタグ「#PaintBack」を付けて画像がシェアされている。グループが制作した動画はユーチューブ(YouTube)で10万回以上再生されている。(c)AFP/Oceane LAZE and Deborah COLE