■苦しめられた鬱とコカイン

「一夜でアーティスティックディレクターに生まれ変わるなんて無理だ」とサヴィオーロはドナテラの引き継ぎについて語る。「当時、ファッションは大きく変化していて、アーティスティックディレクターは数多くのコレクションの多大なプレッシャーを抱えていた」。その髪と日焼けした肌で知られるドナテラは、2005年までコカイン依存と鬱(うつ)に悩まされ続けた。

 2004年には、「フェンディ(Fendi)」の元CEOジャンカルロ・ディ・リシオ(Giancarlo Di Risio)が、新CEOに就任。ディ・リシオはラグジュアリー分野に再び傾注し、ライセンスやフランチャイズの契約を見直し、アクセサリーラインを新たに展開した。計画的削減におけるヴェルサーチ家とディ・リシオの仲たがいが報じられる真っ最中の2009年に、「ジル・サンダー(Jil Sander)」の元CEO、ジャン・ジャコモ・フェラリス(Gian Giacomo Ferraris)が後任として「ヴェルサーチ」のCEOに就任した。

 フェラリスは「ヴェルサーチ」を黒地に戻すため、抜本的な組織再編に着手した。従業員数を25%削減し、いくつかのブティックを閉店させ、業績が上向くと新しい店舗を立ち上げた。フェラリスの改革は「2009年に2億6800万ユーロ(約346億6300万円)だった総売上高を2015年には2倍の6億4500万ユーロ(約834億2400万円)にした」と自身の名を冠したコンサルティング会社を率いるデヴィッド・パンビアンコ(David Pambianco)は語る。同ブランドは、2011年には、3年間の深刻な赤字を脱して黒字を確保した。