【6月29日 AFP】体にぴったりと合った青い制服姿で黒いヒール靴を履いた「女性交通整理員」が、頭を左右にきびきび動かしながら行進して道路に入り、交差点で交通整理を行う。北朝鮮の首都平壌(Pyongyang)を象徴する姿だ。

 正式には交通保安要員、だが一般的には交通整理嬢と呼ばれるこの女性たちは、多くの面で伝統主義が残るこの社会で、容姿によって選ばれる。結婚したらその役割を終えなくてならず、または26歳で強制的に引退となる。

 こうした女性交通整理員は約300人、平壌にのみ存在する。北朝鮮当局は、貧困にあえぐ状態にもかかわらず、平壌を可能な限り見栄えよく見せようとすることに余念がなく、観光客や記者らが好む写真うつりのよい若い女性の提供を怠らない。

■厳しい訓練

 女性交通整理員が初めて導入されたのは1980年代。当時、平壌の道路では車はまだ珍しく、その状態は数十年間続いた。だがそこに出現したのは、ひと気がない大通りで、女性たちが存在しない車を熱心に正確に整理している奇妙な光景だった。

 彼女たちは北朝鮮の治安部隊に所属し、将校の階級を持っている。24歳の上級大尉の女性はAFPの取材に対し、「どの動作も、規律を持ち精神を込めて行わなければならないのです」と話した。彼女の厳しい訓練には「疲労困憊(こんぱい)させる反復」動作が含まれていたと語った。

 女性はさらに、平壌中心部の交差点に背筋を伸ばして立ち続けたまま「でも、それを感じるたびに私を動かし続けたのは、人民の幸せだけを常に望んでいるわれわれの指導者が、私たちの仕事をみているのだという思いでした」「だから夜通し練習し、翌日も全く疲れを感じないで、続けられた」と語った。

■彼女たちをしのぐものはない

 中国に拠点を置き北朝鮮旅行を15年以上にわたり手掛けてきた旅行代理店、高麗ツアーズ(Koryo Tours)のサイモン・コッカレル(Simon Cockerell)氏は、平壌を訪れる旅行客にとって、女性交通整理員をしのぐ被写体はないと語る。

 同氏は「彼女たちには、交通整理することと首都の街頭を輝かせるという2つの役目があるようだ」「平壌を訪れた観光客で、女性交通整理員の写真を撮らなかった人はいないと思う」と話し、観光客たちからは「やや物扱いされる」こともあるが、彼女たちを象徴的な存在と言っても言い過ぎではないだろうと付け加えた。(c)AFP/Sebastien BERGER