■約4割にPTSD、約8割に不安症状

 政府が麻薬カルテルとの戦いに軍を初めて出動した2006年以降、100人近くのジャーナリストが殺害されている。さらに20人以上が行方不明となり、200人以上が麻薬密売人らに襲われている。

 生き延びたジャーナリストにとって、受けた傷は目に見えるものばかりではない。メキシコの犯罪ジャーナリストの多くは、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を患っている。ジャーナリスト246人を対象とした昨年の調査によると、41%にPTSDの症状があり、77%が不安症状、42%がうつ症状だった。

 現地のジャーナリスト協会を率いるエリック・チャベラス(Eric Chavelas)氏は、同僚の30%がPTSDに悩まされていると推測する。「われわれは何年も警鐘を鳴らしてきた。どこに行けば(心理学的援助)が得られるのか分からないのだ」という。専門家によると、PTSDを患うジャーナリストのほとんどは治療を受けていないという。

 調査報道週刊誌「プロセソ(Proceso)」の特派員エセキエル・フロレス(Ezequiel Flores)氏(40)は、暴力を振るわれ殺害脅迫を受けたことが理由で、取材から手を引かざるを得なくなった。

 フロレス氏は2014年に学生43人が失踪した事件が起きたゲレロ州イグアラ(Iguala)市周辺を取材していた。学生らは腐敗した警官によって拉致された後、麻薬組織に引き渡されて殺害されたとみられていた。「毎日、悲劇、悲劇、の繰り返しを記録しているが、自分が蓄積したものをすべてを吐き出すことはできないし、その方法も分からない」

 政府は脅迫されたジャーナリストの保護プログラムを創設したが、暴力を阻止することはできていない。今年に入って5人のジャーナリストが殺害されている。

 5月13日に拉致されたもう1人のジャーナリストで、現地紙ラ・ホルナダ(La Jornada)とAFPのベテラン特派員セルヒオ・オカンポ(Sergio Ocampo)氏(60)は、政府の保護措置は非常ボタンやボディーカードと変わらないと非難した。「われわれが殺されそうになったのは、2か所の軍の検問所の間だ」とオカンポ氏は言葉を絞り出した。「保護措置なんて役に立つものか」。オカンポ氏は拉致事件以来、顔面の右側がひきつっている。医師には心理的トラウマのせいだと診断された。(c)AFP/Jennifer GONZALEZ COVARRUBIAS