【AFP記者コラム】ウルグアイで来月大麻市販解禁、記者が使用登録「あくまで取材のため!」
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【6月27日 AFP】記者たるもの、ニュースになっているものは現場に足を運んで自ら体験しなければならない。ウルグアイの首都モンテビデオ(Montevideo)に住む私が、地元の郵便局に大麻(マリフアナ)購入のための登録に行ったのも、純粋に職業上の理由からだったと強調しておく。
カウンターで対応してくれた女性は落ち着かない様子だった。指紋登録では、親指と人さし指のスキャンはうまく行ったが、中指に来て機械が止まってしまった。担当者が装置をいじっている間、私は担当者の背後に貼られたポスターに目をやった。
そこには郵送が認められていない物品がリストアップされていた。大麻草の葉も含まれていた。ウルグアイでも大多数の国同様、大麻の闇取引は違法だ。ただ大多数の国と違うのは、この国では間もなく薬局で大麻が買えるようになるという点だ。
大麻使用者登録を済ませた私は、国が認可した合法大麻の購入者として、世界で最初に登録された人々の一員に加わった。
大麻の購入に不可欠となる、ウルグアイの永住権取得手続きを完了するには何年もかかる可能性もある。だが大麻使用者登録はというと、ものの数分で終わった。切手を買うのと同じくらい簡単だった。
■ムヒカ前大統領が着手
人口340万人、南米の片隅にあるこの国が、世界に先駆けて最も進歩的な薬事法を施行するに当たり、その最終段階となる大麻の使用者登録が始まったのは先月2日。
来月には、国が管理する非公開のプランテーションで栽培された大麻の薬局販売が開始される。購入者は指紋による本人認証さえ受ければ、1グラム約145円で週に10グラムまで購入することができる。
この大麻法は、2013年に当時のホセ・ムヒカ(Jose Mujica)大統領が着手するや否や、世界中で大々的に報じられた。現在81歳、元左翼ゲリラのムヒカ氏は、その清貧な暮らしぶりに加え、中絶や同性婚、大麻使用の合法化といった進歩的な改革で世界中のリベラル派の称賛の的となった。
ウルグアイでは、大麻の個人使用は1970年から容認されてきた。この新法によりウルグアイ国民には、大麻の自家栽培や愛好家団体の結成などの権利も徐々に認められてきた。
モンテビデオのあちこちに「栽培店」も登場。しかし薬局での販売要請には長い時間を要した。
多くの薬局が拒否した。たばこや酒類さえ売っていないのになぜ大麻を置かなければならないのか、というのが反対派の言い分だ。これまでに大麻販売に同意した薬局は全国で16店舗だけだが、当局は来月中に30店舗にまで増やす方針だという。
■大麻入りのお茶も
新法案が可決された当時、世論調査では国民の3分の2がこの改革に反対していた。
しかし延々とビーチが続くこのおおらかな国は、私が移り住んだ2014年7月には既に態度を軟化させているという印象を受けた。
通りに出てまず気付いたことの一つが、辺りにあの独特のにおいが漂っていること。
市場では大麻の香りのせっけんが売られている。ウルグアイが誇るもう一つのハーブ、マテ茶のメーカーは、大麻入りマテ茶の発売計画も発表している。
2大ブランドの一つ、「アブエリータ(Abuelita)」の商品ラベルにはほほ笑むおばあちゃんのイラストに、「生きることについて考えるのはもうたくさん、さあ生き始めよう」というキャッチコピーが添えられている。
■誕生日会の「お土産」
指紋採取が完了すると、担当者から郵便局ロゴ入りの便箋に印刷された登録証明書を受け取った。大麻使用者として確かに登録されたという証しだ。私はその証明書の写真を撮り、フェイスブック(Facebook)上で友人らに見せた。すると2通りの反応が返ってきた。一つは、もうとっくに大麻を使っていると思っていた、というもの。もう一つは、本当に職業上の理由から登録したのかといぶかしむ声だった。
友人らにとってみれば、どこにでもある話ではない。遠く離れた地にいる彼らは、この国で大麻がどこまで当たり前のものになっているか、認識していない。
ウルグアイ人の友人の誕生日会に招待されて行ってみたところ、10代の若者らに加え、その親や祖父母らも招かれた席で、大量のビールの横にマリフアナの箱が置かれていた。ご自由にどうぞということだ。世代を問わず、誰もが大麻を吸っていた。
別のパーティーでは、残り物を持ち帰る袋でも渡すかのように、「お土産」と大麻をもらったこともある。私はたまに付き合いで、夜中に大麻を使う程度だ。自宅に持って帰ったそのお土産の大麻は、こっそり大麻を忍ばせるティーンエージャーのように小箱を見つけてその中にしまっておいた…隠す相手は自分の子どもだが。
数週間後、娘の乳歯が抜けた。歯の妖精がその歯を取りにやって来て<訳注:欧米の一部諸国には、「歯の妖精」が抜けた歯を取りに来て、硬貨などと交換してくれるという言い伝えがある>、その保管先を探していた私はうってつけの小さな箱を見つけた。…と思ったのもつかの間、箱を開けた途端に鼻を突いた臭いで、子どもの歯のしまい場所にはふさわしくないと悟った。中には大麻が詰まっていた。
■孫と一緒に
国家大麻規制管理機構(IRCCA)によると、初日に使用者登録をした人は私を含め568人に上ったという。今月4日の時点で、登録者数は3853人。これ以外に、既に登録が済んでいる自家栽培者が6811人、公認の大麻愛好会が59団体ある。
AFPウルグアイ支局の同僚、マウリシオ・ラブフェッティ(Mauricio Rabuffetti)記者はモンテビデオの繁華街で、真っ先に使用者登録した人々に話を聞いた。
これまでは闇市場で大麻を購入していたという販売員の女性(26)は、「前より良い、もっと手軽で安全」と歓迎した。闇市場で買った場合、「すごく高い上、どんな代物か分からないから」だという。
定年退職後だという女性(63)は、初めてマリフアナを勧められたのは息子からで、20年前だったと明かした。当時は「私を殺したいの?」と返答したが、4年前ついに使ってみたという。今では孫と一緒に吸うこともあるといい、「ぜんそくに効くのよ」と話した。
ウルグアイは、薬物の違法取引抑制を目指し、世界で初めて生産から販売まで大麻の消費に関わる一切を合法化。その一方で、国外から大麻目当ての観光客が押し寄せることには懸念を示している。
「栽培店」の店頭には、大麻法が適用されるのはウルグアイ国民または永住権保持者のみという注意書きが出されている。
私は幸運にも数か月前、2年の辛抱の後に永住権を取得することができた。そのおかげで実体験が可能となり、皆さんにこのコラムをお届けするに至った。あくまでも、仕事のために払った犠牲なんですよ…! (c)AFP/Katell Abiven
このコラムは、AFPモンテビデオ支局のカテル・アビバン(Katell Abiven)記者が執筆し、2017年6月12日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。