【6月12日】英総選挙で過半数割れを喫した与党・保守党を率いるテリーザ・メイ(Theresa May)首相が政権を維持していく唯一の見込みは、北アイルランド(Northern Ireland)のプロテスタント強硬派政党「民主統一党(DUP)」の協力を取り付けることだと目されているが、DUPの扇動的な主張や敵意をむき出しにしてきた過去を懸念する英国の有権者や政治家らの間には警戒感が広がっている。

「キリスト教原理主義」を標榜するDUPは今、かつての激しい反カトリック主義をはじめとする強硬姿勢を和らげており、日曜日は公園も飲食店も閉めて教会へ礼拝に行くべきだなどという主張も、もはや展開していない。

 しかし、1977年に反同性愛運動「アルスター(北アイルランド)をソドミーから救え」を展開したDUPは、人工妊娠中絶や男女平等などの社会問題については特に、清教徒的と批判されるほど厳格な見解をいまだ堅持している。

 英国内では、DUPが同性婚や人工妊娠中絶に反対し、進化論の代わりに聖書に記された天地創造説を全ての学校で教えることを多くの党幹部が支持していることや、数十年に及んだ北アイルランド紛争でアイルランドとの統一を望むカトリック系住民(ナショナリスト)との武力闘争を繰り広げた民兵組織とつながりがあった過去などをめぐり、抗議デモが起きている。

■偏執的な反アイルランド主義

 DUP幹部の多くは右翼主義者で、反カトリックのプロテスタント組織「オレンジ結社(Orange Order)」に公然と所属している。それだけに2005年、カトリック系過激組織アイルランド共和軍(IRA)の政治部門だったカトリック系民族主義政党シン・フェイン党(Sinn Fein)との権力分担による共同自治をDUPが受け入れたことは、多くの政治評論家を驚かせた。

 この10年ほどはそこそこ誠意に基づいて機能してきたように思われる北アイルランド議会は、しかし、今年1月、再生エネルギー計画の失敗をめぐりDUP党首のアーリーン・フォスター(Arlene Foster)首相の関与が問題となり、DUPとシン・フェイン党の対立に発展。シン・フェイン党が信頼関係の破たんを警告し、DUPは少数派、特にカトリック系住民に対して「横柄で敬意を払っていない」と批判する事態となっている。

 フォスター党首は政治的暴力を非難するが、DUPは長く、民兵組織と基盤を共有し「アルスター(北アイルランド)を売る」とみなした動きに対しては武力抵抗を進んで容認するような姿勢を批判されてきた政党だ。

 この結果、メイ政権がDUPの協力を取り付けた場合、英国の欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット、Brexit)をめぐる交渉でも困難な立場に置かれるとの懸念が有権者の間には広がっている。メイ首相は「悪い取引」につながる交渉は行わないと主張し「強硬離脱」を掲げているが、その約束を守った場合に北アイルランドが直面する関税の再導入にDUPは反対している。(c)AFP/Douglas DALBY