■逃げても「いつかは見つかってしまう」

 チェチェンから逃げて来た人たちを支援している性的少数者団体「ロシアLGBTネットワーク(Russian LGBT Network)」モスクワ支部のオルガ・バラノワ(Olga Baranova)支部長はAFPの取材に対し「毎日3~4件の支援要請を受けている」と述べた。すでに20人近くがモスクワへ移ったという。

 チェチェンの首都グロズヌイ(Grozny)からは1800キロ以上離れているが、今もイリヤさんは、フェンスに囲まれた家の近くを車が通り過ぎるたびに、飛び上がるほどの不安に駆られる。「ネットワークに助けられ、一時的な逃げ場をもらった。だけど、いつかは見つかってしまう」とイリヤさんは静かに語る。

 昨年10月、イリヤさんは軍服姿の男3人に空き地へ連れ出され、殴打された。顔にはあごに沿って大きな傷跡が残っている。「一部始終を撮影され、20万ルーブル(約40万円)払わなければソーシャルメディアに流すと言われた。借金をして、それを払った」

 しかし、イリヤさんはどのみちモスクワへ逃げなければならなかった。「母のところへ兵士がやって来て、僕のことをゲイだと言った」「本当に恐ろしい。逃げてから、眠ることができない」

 仮名を語ることさえ拒んだ別の男性も、2週間前にチェチェンを離れて以来、妻や子どもに自分が同性愛者であることがばれてしまうことを恐れ、眠ることができないと語った。彼は3月に1週間、「非公式の刑務所」に入れられた。「同じ房には他のゲイたちがいた。何人かはたたきのめされていた」「釈放されたとき、今すぐ逃げなければと思った」

 チェチェンの同性愛者弾圧に関する報道は、世界各国で非難を巻き起こした。活動家たちは、ロシアと2度の独立紛争を交えたチェチェンのカディロフ首長を憤慨させないよう、ロシア政府が目をつむっていると非難している。

 このニュースを伝えたノーバヤ・ガゼータ紙の記者の一人、イリナ・ゴルディエンコ(Irina Gordiyenko)氏はチェチェンの高位イスラム法学者から殺害の脅迫を受けた。また同紙編集部には「グロズヌイ666666」と書かれ、白い粉が入った封書が届いたが、この粉は無害であることが確認された。(c)AFP/Anaïs LLOBET