【4月3日 AFP】ベトナムのフィン・ニャ・アン(Huynh Nha An)さん(21)は毎週、同じジレンマに心を悩ませる。それはつつましい収入の使い道だ。食費にするか、顔にひげが生え戻ってくるのを抑えるホルモン剤を闇市場で買うか?

 物静かなアンさんは、男性として生まれたものの、性別適合を強く希望している。医師に頼らず自分でタイから薬剤を密輸しては、自己注射している──お金があるときは。

 屋台の売り子をしながら、パートタイムで歌手としても働くアンさんは、「ホルモン剤を定期的に打たないと男に戻ってしまい、女の子のようにすべすべではいられなくなる」と説明した。

 ベトナムのトランスジェンダーは、ホルモン療法や性別適合手術を合法的に受けることができず、何千人もがアンさんと同じ問題を抱えている。

 そのため、深刻な健康リスクがあるにもかかわらず、自己処置を余儀なくされている人が少なくない。

 保守的な道徳規範が根強い共産主義国ベトナムのトランスジェンダーは、多くの地域で差別に苦しめられているが、政府は現在、性別適合を公認する法整備を進めている。同国ではまれに見る社会進歩の動きだ。

 ベトナムのトランスジェンダーは約30万人に上るとされ、新法が成立すればより良い医療が期待できるはずだが、施行は早くても2019年になると見込まれている。

 それまでアンさんは専門医による治療を受けずに、ホルモン注射の用量や頻度を友人らに教えてもらいながら乗り切っていかなければならない。

 アンさんの月収は1万1000円程度。その半分近くを薬剤購入に充てたり、友人から借金したりする月もある。家出してからは、家族からの金銭援助も途絶えた。「両親からは今も病人扱いされ、女としては受け入れてもらえない」