【3月15日 AFP】ナチス・ドイツ(Nazi)が障害のある子どもを大勢殺害したことで悪名高いオーストリア首都ウィーン(Vienna)の医療施設で働いていたスタッフのほぼ全員が、戦後もそこで働き続け、患者たちを虐待していたとの報告書が公表された。

 オーストリア当局の報告書によれば、第2次世界大戦が終結した1945年から1980年代初めまで、「パビリオン15(Pavilion 15)」と呼ばれるこの施設に600~700人の子どもたちが収容され、「暴力の包括的なシステム」にさらされていたという。

 元患者やスタッフらへのインタビューを元に作成されたこの報告書は、「不適切な雇用とナチス時代との思想的決別がこのような非人道的な状況を招いた」と指摘している。

 スタッフの大半は適切な資格を持っておらず、子どもたちを静かにさせるために薬を「多用」し、柵で囲んだベッドと拘束衣を用いていたという。

 現在は閉鎖されているが、この病院では少なくとも70人が死亡している。そのうち約80%は虐待や栄養不良による肺感染症が原因だったと報告書は記した。

 この施設は、ナチスが800人近い子どもたちに対して疑似科学的な実験を行ったり、彼らをガス室送りにしていたクリニック「アム・シュピーゲルグルント(Am Spiegelgrund)」の一部だった。

 子どもたちの遺体は、彼らの科学的目的のために戦後長きにわたり使われていた。

 驚くべきは、今回の報告書によると、ここで亡くなった子どもたちの脳は、ナチスの医師でこうした死体の実験を行っていたハインリッヒ・グロス(Heinrich Gross)氏に戦争終結後も渡されていたという。

 グロス氏は裁判にかけられたが有罪判決を受けることはなく、戦後も医師としてのキャリア築いた。子どもたちの脳を入手できていたために、彼は1945年以前に始めた研究を続けることが可能だったと、報告書は指摘した。同氏は2005年に死去している。(c)AFP