■消えた「生物多様性」

 人々は不足分を補うために、共同でお金を出し合って民間企業による給水を頼んだり、ロバを連れて公共の井戸で何時間も並んだりしている。中には自ら井戸を掘る人もいるが、その水は塩を多く含んでおり、飲料用には向かない。

 大半の世帯は、社会保障と干ばつ対策の緊急支援とを合わせて月に130ドル(約1万5000円)余りを支給されている。だが、追加で給水車を頼むだけで約50ドル(約5700円)かかることを考えると、これはとても十分な額とは言えない。

 畜産農家のクララ・カルネイロさん(67)は「干ばつの1年目は、貯水池にまだたくさんの水があったので問題なく乗り越えることができた。でも今は、これまで以上に節水しないといけない」と言う。彼女はシャワーの水を節約したり、食器洗いに使った水を牛12頭のために再利用したりしている。牛1頭あたり1日100リットルの水が必要なのだという。

 セアラ州キシャダ(Quixada)のセドロ貯水池を見渡すことができる「パラダイス・バー」は営業こそ続けているが、客はほとんどいない。この貯水池は、五輪競泳用プール5万杯以上の貯水能力を誇るが、今や完全に干上がっており、底には数百のカメの死骸や魚の骨が散乱している

 キシャダ州立大学(Quixada State University)で動物の死骸に関する研究に携わるワグナー・ドカルム(Wagnar Docarm)氏は、「ここには多くの魚や両生類、貝などが生息していた。魚を食べる多くの鳥が生息し、豊かな種の多様性があった」と語る。しかし今、それらの生物はどこにもいない。

 ブラジルはこの100年で最悪の不況に直面しており、政府からの支援金給付が遅れることもめずらしくない。そして長く期待されつつも物議を醸している、サンフランシスコ川(San Francisco River)を転流させるプロジェクトは、最大の関係企業が国家的な汚職疑惑に絡んでいたことが発覚し棚上げされた。

 2017年の気象予測を見る限り、貯水池が再び満たされないことも、そしてセルトンの状況が好転することも難しい見通しだ。

 セアラ州キシェラモビン(Quixeramobim)の小さなコミュニティーに住む人々は、助けてくれるのは神だけだと言う。「私たちを助けられるのは天上にいる人だけ。だから祈らないといけない。政治家たちは選挙が終われば、私たちのことなど忘れてしまう」と、この地で農業を営むセバスティアオ・バティスタさん(66)はAFPに語った。(c)AFP/Carola SOLÉ