【3月31日 AFP】「仮想スキーヤー」が猛スピードで斜面を滑り、選手の血糖値が心拍数とともにスクリーンに表示される―これは、テレビ視聴者を待ち受ける五輪のデータ革命の一部だ

 2018年平昌冬季五輪の開幕まで1年を切る中、スポーツ専門放送局ユーロスポーツ(Eurosport)は、北米や日本の放送局とともに新たな中継装置を開発し、国際オリンピック委員会(IOC)や選手から承認を得る準備を整えている。

 ユーロスポーツのピーター・ハットン(Peter Hutton)最高経営責任者(CEO)は、2018年に開催される冬季五輪では、2014年のソチ冬季五輪と比較してデータ量が「大きく飛躍」するとし、「スクリーンに映し出されるデータ量は画期的なものになる」と述べた。

 競泳のテレビ中継で世界記録の仮想ラインが表示されるのと同様に、各局は冬季五輪のスキー競技でも「仮想スキーヤー」を画面に映し出すことによって、競技中の選手がどれほどリードしているのか、あるいは遅れているのかを示すことを目指している。

 世界記録のラインを重ね合わせることによって競泳のテレビ中継が進化したように、ハットンCEOや関係者は今回の冬季五輪で改革の準備が整ったと確信。競泳の仮想ラインはシンプルかつ明瞭であると話すハットンCEOは、「仮想スキーヤーやラインを使用して、現在トップに立つ選手がコース上のどの位置にいるのか示すことができれば、競技がより分かりやすくなる」と述べ、視聴者はスプリットタイムが出るのを待つ必要はなくなると付け加えた。

「装置は現在も試験中だが、実用化に近づいている」

 ライバル局はまた、選手にパフォーマンスパッチを取り付けるなどして、メダル候補の情報をリアルタイムで伝達する技術に取り組んでいる。

 選手の体にパフォーマンスパッチなどを取り付けることによって、心拍数や姿勢だけでなく、疲労の指標となる血糖値など詳細なデータまでも示すことができるとされている。

 ハットンCEOは、「これでスポーツがもっと理解しやすくなると同時に、自転車やテニス、そしてウインタースポーツにかかわらず、もっとドラマチックに競技を見ることができるようになる」という見解を示し、「現在あらゆるスポーツにおいて、こうした議論が行われている。これらのパッチを取り付ければ、そこから関連情報を得ることが可能になる」と述べた。

「多くのアスリートは、データの開示について明らかに懐疑的になっており、そのことについては各連盟と詰めの作業をしていく必要がある。しかし、目指す方向はいたって明瞭だ。来年に向けて、選手の実力を比べて詳しく分析できるようにしていく必要がある。リアルな情報を提供することによって、選手の体に何が起きているのか視聴者に伝えることができれば、とても興味深いものになる」

 各局はデータ改革案について、これからIOCや各国際競技連盟の承認を得ていく必要がある。しかし、ハットンCEOは「国際スキー連盟(FIS)はより詳細なデータをまとめることを熱望している」と、連盟が変革を望んでいると述べた。

 パフォーマンスパッチの着用については選手の任意となる。自転車ロードレースでは、選手の自転車にカメラを付ける試みが認められた。これもまた任意だが、ハットン氏によるとより注目が集められるとカメラの設置を求める選手もいるという。

「そうなれば彼らに注目が集まる。選手たちは注目されたがるものだ」

 ユーロスポーツはまた、スキーヤーのヘルメットに取り付けたカメラ、バーチャルリアリティー、そしてデータ結果を分析する調査ユニットで、「選手の挙動の50パーセントは必ずとらえる」としている。

 2018年から2024年の五輪で、テレビやマルチメディアプラットフォームを媒体とした欧州での放映権を130億ユーロ(約1兆5500億円)で獲得したユーロスポーツは、米NBCテレビや日本の放送局と連携して新技術の開発に取り組んでいるという。

 ユーロスポーツの親会社である米ディスカバリー・コミュニケーションズ(Discovery Communications)のJ.B.ペレッテ(J.B. Perrette)会長は、新しい番組で五輪に出場するスター選手の素顔にも迫りたいとしている。

「感動的なストーリーは、選手以外の存在にも広げることができる。それは家族や兄弟、時には子どもたちだ。彼らの物語を伝える方法を見つけなければ」 (c)AFP