■古典的スタイルとラテン的官能の融合

 バレエ人生を通じて、キューバを去らないかという無数のオファーを断り続けてきたアロンソさんは、すぐにそれと分かる古典的スタイルとラテン的官能の融合を特徴とした比類のないバレエ学校をこの島国に創設した。100歳近くになった今、アロンソさんは伝説的存在だ。

 アロンソさんとキューバ革命の指導者、故フィデル・カストロ(Fidel Castro)前国家評議会議長下の共産主義政権との密接な関係を批判する人もいる。国立バレエ団創設にあたり、フィデル氏の支援は大きな助けだった。

 だが、彼女のバレエ界の象徴としての地位に疑いはない。

 アロンソさんが演じたあまたの役柄の中で最高の踊りとして知られているのは、フランスのロマンティックバレー「ジゼル(Giselle)」だ。この踊りで彼女は国際的スターになった。だが、アロンソさんの崇拝者らは彼女の「カルメン(Carmen)」、「眠れる森の美女(The Sleeping Beauty)」、「コッペリア(Coppelia)」、「白鳥の湖(Swan Lake)」、「くるみ割り人形」などの古典の「キューバ版」にも熱心な称賛を惜しまない。

 かつての弟子、アウロラ・ボッシュ(Aurora Bosch)さん(74)は、マチズモ文化が色濃いキューバで、男性ダンサーをどのようにバレエ団に勧誘したのかを回想する。「彼女は男性たちに、フェンシングのクラスをやっているって言ったのよ」

「バレエのステップの稽古が始まると、彼らは言ったものよ、待て、剣がないじゃないかって」。しかし、アロンソさんの魅力に引き付けられ、最後には観念してとどまってしまうのだった。「そうして今、私たちの学校、私たちの踊り方が、男性ダンサーのおかげで大いに際立っているのです」

 アロンソさんは1995年、75歳のときにバレエシューズを置いた。1938年、ブロードウェー(Broadway)でデビューを果たしてから、60年近くが経っていた。

 キューバの才能のある若い世代は、アロンソさんの踊りを見たことはない。だが、彼女に対する畏敬の念は変わらない。

 若き希望の星パトリシオ・レベ(Patricio Reve)さん(18)は、アロンソさんからの偉大な教えを心に留め続けている。「アリシアさんはいつも、踊ること、それからキューバ流を守ることの必要性を強調しているのです」

(c)AFP/Hector Velasco