■伝統のブドウの足踏みも自分で

 完璧さと本物であることに静かながらもマニアックな情熱を傾ける大岡さんは、ブドウの破砕も体を張って行う。紫色のブドウの実を、はだしで踏むのだ。おけの中で溺れてしまわないよう、ハーネスを装着して作業する。

「足で踏みつぶしていると、香りや温度、発酵の速度について学ぶことが多いんです」と大岡さん。「ハーネスを使うのは、排出される二酸化炭素のせいで危険だからです。あっという間に気絶して溺れてしまいます」

 大岡さんがワインに出会ったのは、20年前に初めてフランスを訪れた際だった。「東京ではビールを飲んでいました。ワインは気取り過ぎだと思っていたので」

 そんな大岡さんに人生の転機が訪れたのは、父親のために買ったボルドーワインの瓶を開けた時だった。

 フランスに戻り、偉大なワイナリーが林立するボルドー(Bordeaux)地方でワイン造りの修行を受けた。

 しかし程なくして、ワイン至上主義の村々の単一文化の中にあっては、自分が造りたいワインは絶対にできないと悟った。

 大岡さんには、自分のブドウの木には、そばで栽培されている他の木々や野菜の生物多様性からの恩恵を反映させたいという思いがあった。