【12月5日 MODE PRESS】2007年のデビューから9年目、「ファセッタズム(FACETASM)」は今や東京を代表する新世代ブランドだ。ダイヤモンドなどの切り面を意味する 「ファセット」 に由来するブランド名には 「様々な見え方」や「様々な顔」といった意味が込められている。落合宏理(Hiromichi Ochiai)はその高いデザイン性とテキスタイルへのこだわり、ストリートとモードの融合で定評のあるデザイナーだ。

 世界的にユースカルチャーやストリートのムードが高まっている昨今、「ファセッタズム」の快進撃はとどまるところを知らない。2015年、ジョルジオ・アルマーニ(Giorgio Armani)が推進する若手デザイナー支援プログラムにアジアから初めて選出され、ミラノでメンズコレクションを発表。さらに今年「第3回LVMH賞(LVMH Prize)」では日本人として初めてファイナリストにノミネートされ、6月にはパリコレにデビューを果たす。そんな中でもインディペンデントなスタンスを貫く落合は、いったいどんな戦略を胸に秘めているのだろうか。 

東京とパリを忙しく行き来する落合(2016年11月17日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■オリンピックの仕事はファッションデザイナーでよかったと実感

 今年8月、リオから東京への「フラッグハンドオーバーセレモニー」は五輪閉会式の最後に大きな注目を浴びた。落合は、スタイリストの三田真一(Shinichi Miter)やスタイリスト&衣装デザイナーの飯嶋久美子(Kumiko Iijima)、ドレスメーカーの櫻井利彦(Toshihiko Sakurai)とともにセレモニーの衣装を担当。とくにクライマックスでは、東京のカジュアル感やストリート感をミックスしたデザインで観客を魅了した。「初めて衣装というものを手がけたので難しい部分もあったが、今まで服のことしか見てなかったのですごく良い経験だった。特にパラリンピックは人の力や熱量などを感じられて、ファッションデザイナーでよかったと思う」と本人は満足げに語る。

 また今年39歳になる落合は、幼い息子を抱える父親としての顔ものぞかせる。「父親になった年に子供にちゃんと話せる仕事ができたというのは、生涯の中でなかなかないこと」。プレスルームにはベビーベッドが置かれており、パリコレのバックステージにも子連れで行ったと語る。目まぐるしく変化する環境とは対照的に、彼自身はいたって自然体で居続けているのが印象的だ。 

第34回「毎日ファッション大賞」大賞を受賞(写真中央、2016年11月2日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■絶対に自分がとらなきゃいけない賞だった

 今月初めには、第34回「毎日ファッション大賞」を受賞。過年度の受賞者に川久保玲(Rei Kawakubo)、三宅一生(Issey Miyake)といった世界的デザイナーが名を連ねる賞だが、落合はいたって冷静だ。「モードを志している人間として、絶対にとらなきゃいけないという賞だとずっと思っていた。自分たちはどこにも属さず、メジャー出身というわけでもない。どうオリジナルで戦うかという面ではハードな環境に置かれているので、そういう中での受賞はモチベーションも上がるし、大切なこと。今この時期にいただけるということは、チームにとってもすごく良いことだった」

 また世界的なアワードである「LVMH賞」に関しても同じだ。「服を見た感じで、セミファイナリストかファイナリストにはなれるなと思っていた。どんなに難しいデザインに対してもクオリティ高く製品が上がってくるところは、日本の良さ。逆に言うとそのクオリティが高すぎてデザインが負けてしまうこともよくあるが、日本だからこそできる高いプロダクトという部分は実現できたと思う」と自身のクリエーションを客観的に分析する。 

パリで発表された17年春夏コレクション(c)FACETASM

■戦う場所はどこでもいい

 ブランドを取り巻く環境がどんどん変わっていく中でも、プレッシャーを跳ね返すのが「ファセッタズム」の強みだ。「海外に出るからと虚勢を張ったりするのは、一番イケてない。東京で戦ってるということは、世界で戦ってるということと一緒。今の時代、戦ってる場所がどこであろうと、自分たちのクリエーションをちゃんとやればそれが響く状況になってきている」と断言。「パリコレが最終地点でもなければ、スタートでもない。ただ僕らの場合、自然な流れとして海外でやるべきだと思っただけ」

「同世代のブランドと比較されたり、ポスト「サカイ(Sacai)」と呼ばれたりすることに対しても気負いはまったくないと言う。「ブランド立ち上げ当初からオーバーサイズを提案したが、それはこの世代でちゃんと服をやっているものなら誰でも持つ答えの一つだと思う。時代の流れとタイミングがぴったりきただけ。他のブランドと比較されることも多いけど、普通にやってきたことだから、そこに関してネガティブな感じはない」と同世代のブランドの存在にも余裕を見せる。 

東京で撮影された17年春夏コレクションのビジュアル(c)FACETASM

■「東京っぽさ」は一つの答え

 また「ファセッタズム」が語られるとき、「東京らしさ」という形容は避けて通れない。「デビューしたときから言われていて、東京出身だし東京で服を作っているから、『そりゃそうだよね』と言うしかなかった」という落合だが、やがて日本独自のスタイルが確立されていることに着目し始める。それはユース感や様々な文化のレイヤーなど、日本人だけが持つミックス感だった。「やっぱりそれは東京の面白さなのかなって今は実感している。本質的には、自分たちから生まれる服をちゃんと作っていきたいだけ。だが、そんな中でいろんな方に『東京っぽいね』と言ってもらえたら、それは一つの正解というか、安心できる答えではある」 

「ファセッタズム」のショップにて(2016年11月17日撮影)。(c)MODE PRESS/Yoko Akiyoshi

■臆することなく、強気に進むのみ

 ファッションにおいて世界の壁はない、というのが落合の考えだ。「欧米にコンプレックスもあったが、自分たちのデザインやファッションに対しての熱量がそれを越えている。スタッフのみんなも、今のファッションシーンの空気を動かせるような価値観を持って働いてるメンバーばかり。そういう中にいると、臆することが無駄なことのように思える。だから僕は先頭立って、強気なことしか言っていない」

 現在、ブラウンズ(Browns)やバーニーズ・ニューヨーク(Barneys New York)、ドーバーストリートマーケット(Dover Street Market)など海外の取引先は70を超える。その拡大ぶりに「ビジネスとしては、日本である程度できていれば世界でも通用することが分かった」と自信をのぞかせる。「世界に向けて東京を大切にしたいと思う。だからパリでショーをやるけれど、東京でもなにかやりたいなという気持ちもある」と語る。

 落合は東京と世界、ストリートとモード、その両方を同一線上に語れる数少ないデザイナーと言えよう。そのグローバルな戦い方は、私たちに新たな価値観をもたらしてくれる。それは多くの「ファセット」をきらめかせながら、一つの目標へと向かう、まばゆい躍進にほかならない。

■関連情報
・ファセッタズム公式HP: http://www.facetasm.jp/
(c)MODE PRESS