【11月21日 AFP】メキシコの首都メキシコ市(Mexico City)にある地下鉄駅のがらんとした廊下のつきあたりに設けられた遺失物取扱所には「特別な」忘れ物が2つある──子どもと若い男性の遺灰がそれぞれ入った2つの骨つぼだ。

 メキシコ市の地下鉄利用者は、1日当たり550万人を数える。駅の総数は195だが、遺失物取扱所はカンデラリア(Candelaria)駅の奥に設置された1か所のみだ。ここには、年間2000点ほどの遺失物が届けられるため、所内は身分証明書やバックパック、自転車、携帯電話、玩具、ベビーカー、服、靴などであふれ返っている。

 ほこりっぽい事務所にあるのは、1980年代製の電話など古いものばかりだが、所長のドノバン・アルバラド(Donovan Alvarado)氏(40)にとっては、そのようなことは特に問題ではない。彼はここで6年働き、所長になってから1年以上がたつ。

「忘れ物を持ち主に返すことができる幸せは何物にも代え難い」と、アルバラド氏は言う。「喜んで涙を浮かべる人たちからのお礼に、値段なんかつけられない。ここはとても高潔な場所だ」

 白のシャツに明るいオレンジ色のネクタイ、地下鉄メトロのオレンジ色のロゴが入った濃紺のジャケットを着たアルバラド氏は、数ある忘れ物の中でも最も大切な骨つぼ2つを、金属の棚の一番上に保管している。

 骨つぼは昨年12月から今年1月にかけて、電車内で見つかったものだ。法律では6か月たっても持ち主が現れない遺失物は寄付するよう定められているが、アルバラド氏は持ち主が現れるまで保管するつもりだという。