【11月8日 AFP】(写真追加)シリア出身のヌジーン・ムスタファ(Nujeen Mustafa)さん(17)は、紛争下にある母国を離れ、2000キロに及ぶ過酷な道のりを車いすで移動し、現在はドイツ・ケルン(Cologne)で安全に暮らしている。移動中には、米国のテレビドラマで覚えた英語が役に立ち、他の難民らを助けることもあったという。

 ムスタファさんは、インターネット電話のスカイプ(Skype)を通じてAFPのインタビューに答え、「(移民問題への対応で)ドイツは最初から正しかったのだということをみんなに証明したい。私たちは全力を尽くす」とコメントした。

 ノーベル平和賞(Nobel Peace Prize)受賞者のマララ・ユスフザイ(Malala Yousafzai)さんも、困難に果敢に挑むムスタファさんから感銘を受けたとたたえている。

 脳性まひを患うムスタファさんは、内戦で荒廃したシリア北部アレッポ(Aleppo)から欧州を目指す苦しい道のりについて回顧録「ヌジーン」につづった。同回顧録は、英国人ジャーナリストのクリスティーナ・ラム(Christina Lamb)氏と共同執筆したもので、このほど出版された。

「シリア危機について人々は、遠く離れた場所で起きている、気にかけるべきでない…実際気にも留めない出来事と捉えている。人が単なる数字に置き換えられてしまっていることも分かっている」「この本が、たった一人にでも影響を与え、難民に関するたった一つの考え方でも変えることができればと願っている」とムスタファさんは語った。

■「シリア、私を許して」

 回顧録は、シリア内戦初期の様子と激化していく暴力行為の描写から始まる。ムスタファさん一家も、あまりに危険で避難せざるを得なくなった。

 国境を越えてトルコ入りした際、ムスタファさんは「シリア、私を許して」とつぶやいたという。

 高齢のため移動できない両親をトルコに残し、ムスタファさんと姉妹は、既に兄弟2人が暮らしているドイツを目指すことになった。

 ムスタファさんは、ボートでギリシャに渡った際の恐ろしい経験についても詳細に振り返った。このボートを操舵(そうだ)していたのは、動画共有サイト「ユーチューブ(YouTube)」のビデオで運転を覚えたというムスタファさんのおじだ。この時は、乗り合わせた他の人たちが、自分の車いすを海へと放り出すのではと不安になったという。

 着岸後は、だまそうとする密航業者らをかわし、混雑するキャンプや閉鎖された国境を乗り越え、やっとの思いで最終目的地のドイツにたどり着いた。

 移動中には、人の温かさや連帯を感じられる瞬間もあった。障害物があると周囲の人々が車いすを持ち上げてくれたり、好意で車に乗せてもらえたりすることもあったという。

 シリアを離れる前は、アレッポにあるアパートの5階の部屋からほとんど出たことがなかったというムスタファさんにとって、1か月に及んだ旅路の大部分はまさに「冒険」だった。途中、米テレビドラマ「デイズ・オブ・アワ・ライブス(Days of Our Lives)」を見て覚えた英語が重宝し、自分も役に立てるのだと「初めて」実感することができたのだという。