【10月28日 AFP】英イングランド(England)南東部にあるプラックリー(Pluckley)は「イングランドで最も幽霊が出る村」として知られる。だがハロウィーンを前に村人たちが頭を悩ませているのは幽霊よりも、怖いもの見たさに村を訪れ酒をあおって村内をぶらつく大勢の酔っ払いたちだ。

 プラックリーはケント(Kent)州の白亜の丘陵近くに位置する人口800人ほどののどかな村で、1086年に作成された英国初の全国調査の記録簿「ドゥームズデイ・ブック(Domesday Book)」にも掲載されている。村には古い教会や墓地、精肉店、幽霊スポットとして有名な赤れんが造りのパブ「ブラック・ホース(Black Horse)」などがある。

 一見すると英国の田舎によくある牧歌的で趣のある村だ。しかし、村のあちこちに掲げられた案内板を見れば、この村のもう一つの顔がわかる。「ここには公式に認定された幽霊が12人と、あまり知られていないたくさんの幽霊たちがいます」

「昼間は静かで平穏な村なんですが、夜には雰囲気が一変するんですよ」とプラックリーで「ゴースト・ツアー」を運営するスティーブ・モイル(Steve Moyle)さんは語る。夜になると幽霊を探し求めて墓地や駅や森などに人々が殺到するのだという。

■「赤い貴婦人」と「悲鳴の森」

 AFPは取材という名目で、過去に幽霊が現れたと記録されている数か所を訪れてみた。

 最初に訪れたのは聖ニコラス教会(St. Nicholas Church)とその墓地だ。ここには幽霊スポットには付き物の「白い貴婦人」のほかに「赤い貴婦人」の幽霊が現れるという。「赤い貴婦人」は赤いバラと共に埋葬された高貴な女性で、死産した自分の子どもを捜して1000年もさまよい続けているという。

 墓地に立ち並ぶ朽ちかけた古い墓石には、おおいに想像力をかき立てられたが、実際に心霊的な現象を目にすることはなかった。

 そこから数キロ行くと、勇敢なゴーストハンターでさえ道に迷いそうな「デリングの森(Dering Woods)」がある。別名「悲鳴の森」とも呼ばれているが、耳に入ってくるのは悲しげな幽霊の泣き声より甲高い鳥の鳴き声ばかりだった。

 実際のところ、話を聞いた多くの住民の中で幽霊の存在を信じていると告白したのは1人だけだった。

 パブ「ブラック・ホース」の女主人サラ・ナイトさん(35)は、「目の隅っこのほうで、何か動くものが見えることはよくあるわね。パブでは足音を聞くこともあるし」と証言する。掃除機をかけている時に、後ろのポケットをグイッと引っ張られることもあるという。

■住民たちは悲喜こもごも

「ブラック・ホース」がツアーガイドに村の幽霊話を売りこみ、村に幽霊好きが集まってくることはプラックリーにとって有益だと指摘する住民もいる。

 ともかくハロウィーンが近づくと、「イングランドで最も幽霊が出る村」という言葉に引き寄せられて、単なる好奇心を抱いた人から酔っ払いまで様々な人たちが12人の「公式幽霊」のどれかを目撃しようとプラックリーにやって来る。

「とんでもない騒ぎになることもある」とプラックリーで働く60代女性は懸念する。「酔っ払った人たちが村をうろついたり、学校が燃やされそうになったこともあったわ」

 一方、聖ニコラス教会の向かいに住む60代の男性は、幽霊を見にくる観光客らには笑えると話す。「10人くらいのグループが行ったり来たりしている。懐中電灯であたりを照らしてるのに、幽霊が見えないと不思議がってるんだよ」(c)AFP/Edouard GUIHAIRE