【10月23日 AFP】(写真追加)父親は大声でがなり立てる衝動的な人物だが、その娘は対照的に冷静で思慮深い──父親とは米大統領選の共和党候補ドナルド・トランプ(Donald Trump)氏、娘はトランプ氏の長女イヴァンカ(Ivanka Trump)さん(34)だ。元ファッションモデルで実業家のイヴァンカさんの父親との距離の置き方は、対立する民主党陣営からも一目置かれる一方、政治評論家たちを戸惑わせている。

 トランプ氏は大統領選で自分が敗北した場合の選挙結果の受け入れについて明言を避け、物議を醸しているが、これについてイヴァンカさんは「結果がどうあろうと彼は受け入れるでしょう」とコメント。女性に対して自分は何でもできると豪語する父親のわいせつ発言については「不適切かつ侮辱的」であり「私たち(女性)にとって不快」な発言と認めている。

 それでもイヴァンカさんが現在も父親の有力な支援者であることは明らかだ。トランプ氏は、米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)の名門経営大学院、ウォートン・スクール(Wharton School)卒という経歴を持つ容姿端麗な娘を誉めそやしてきた。若者や女性有権者の支持獲得を娘の魅力に頼っているのだ。イヴァンカさんも7月に行われた共和党大会の演説で、父親の「強さ」や「優しさと思いやり」を誇らしく思うと語っている。

 しかし同時にイヴァンカさんは距離の取り方も心得ている。

■トランプ氏とは「つかず離れず」

 幼い頃から注目を浴びて育ってきたイヴァンカさんは、父親の不倫騒動が大衆紙の紙面をにぎわせるのを目にしており、どうすれば自分自身と「イヴァンカ」の名を冠したファッションブランドのイメージを保てるのか把握しているのだ。

 実業家の夫を持ち3人の子の母親でもあるイヴァンカさんは選挙運動期間を通じ、6週間の産休や育児中の税控除など共和党の主流派とはおよそかけ離れた公約を打ち出すよう、ひそかに父親に働き掛けてきた。その上でイヴァンカさんは、トランプ氏の選挙運動を裏で操っているとの憶測を否定し、自分は兄弟や夫とは違い政治に深入りはしないと公言している。

 だが、米誌ニューヨーカー(New Yorker)が指摘するように、自身のブランドを守るために、しばしば父親から遠ざかって均衡を保とうというイヴァンカさんの努力はそう簡単なものではない。「父親のそばをつかず離れずの距離で漂い、パワーを得ながら自身は汚れずにいようとする彼女のやり方は、選挙戦が一層醜さを増していく中で、ますます難しくなっている」とニューヨーカー誌は指摘する。

■ライバルからも称賛されるイヴァンカさん

 それでもイヴァンカさんの慎ましさは、米大統領選のライバル民主党陣営から一定の尊敬を勝ち取っている。

 10月9日に行われた大統領選2候補による2回目のテレビ討論会で、司会者が最後にライバルの長所を少なくとも一つは挙げるよう促したところ、民主党候補のヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)氏はためらうことなく「彼(トランプ氏)のお子さんたちは信じられないほど献身的で有能だ」と称賛。クリントン氏の娘のチェルシーさんとも長年来の友人関係にあるイヴァンカさんに間接的に敬意を表した。

 クリントン氏を強力に後押しする内容の映画が公開になったばかりの映画監督マイケル・ムーア(Michael Moore)氏も自身のウェブサイトで、イヴァンカさんについて「頭脳明晰(めいせき)」「賢明で冷静な女性」などと評し、父親の無謀な選挙戦を止められる唯一の人物としている。

 米保守系シンクタンク、フーバー研究所(Hoover Institution)の政治学者サム・エイブラムスSam Abrams)氏も、イヴァンカさんの発言を聞けば彼女が周囲の中傷合戦に加わっていないことが分かるという。「彼女はもっとプロフェッショナルに、大人であろうとしている」。エイブラムス氏によれば、父親からある程度の距離を置くことでイヴァンカさんは将来の選択肢を増やしているのだ。

 例えば、かつてトランプ氏がホストを務めた人気リアリティー番組「アプレンティス(The Apprentice)」に出演していたイヴァンカさんにはテレビ業界で活躍する機会もあり得るし、政界入りも考えられる。いずれにせよ、父親には示せなかった価値観をイヴァンカさんなら提示できるだろうとエイブラムス氏はいう。「問題は彼女はどうしたいのかということだ。父親とたもとを分かつことができるのか。本当にそうしたいと思っているのだろうか?」(c)AFP/Catherine TRIOMPHE