■「仕方なく」

 AFPの取材に匿名で応じた別の女性(26)は、歌手になる夢をかなえる手伝いをするとのプロダクションの言葉にだまされ、AV業界に誘い込まれたと語った。契約書には、実際の仕事の内容ははっきり書かれていなかった。契約後も「時代は変わったから(AV出演の後に)売れるパターンが多いと何か月にもわたって説得された。それで仕方なく…」と話した。

 初めは抵抗した。だが、香西さんや他の女性たち同様、プレッシャーをかけられた。「最初、本当に泣いて。無理無理って。痛くてしんどかった。それでも止めてくれなかった」

 日本で人身取引の撲滅に取り組むNPO「ライトハウス(Lighthouse)」によると、今年7月末までに寄せられたAV被害に関する相談件数は62件で、近年最多となっているという。2014年には同36件、2015年に同62件だった。ライトハウスの広報担当、瀬川愛葵(Aiki Segawa)さんは「この件数は氷山の一角だと思っています」と語り、そして「当事者の多くが、自分が悪いと自責の念にかられている」ことを明らかにした。

 そうした女性たちの大半は18~25歳と若い。契約の知識はなく、裁判で証明するのが難しいということも知らない。「必ずしも暴力を受けたり監禁されたりということではない。言葉巧みにだましていくといったニュアンスです」(瀬川さん)

 香西さんは、仕事に集中するようプロダクションから言われ、家族とは疎遠になっていった。「不安を精神安定剤で消したりとか。そこに走ってしまった。その時点でもう、客観的な判断ができなかった」とつらい時期を振り返る。

 現在は、自分を洗脳したというプロダクションから独立し、フリーランスとしてAVの仕事を続けている。そして「(今は)やりたい内容を決めさせてもらえるので恵まれている」「不本意で入ったとはいえ、独立した後に会った人たちは作品に愛情を持っている。(AV業界には)よくなってほしいです」とも述べており、あくまで前向きに仕事に臨んでいる。

 人権NGOヒューマンライツ・ナウ(Human Rights Now)の報告書には、AV業界のスカウトたちが使う卑劣な手段の数々が挙げられていた。被害者らは、曖昧な言葉で書かれた契約に違反すると法外な違約金を請求すると脅され、一度AVビデオに出演したら二度と他の業界では働けないなどと聞かされたケースもあった。仕事を断ればスカウトたちは、被害者の大学のキャンパスまで行くと脅したり、実家に行って親に多額の違約金を請求するとすごんだりする。