【10月17日 AFP】ケニアに暮らしていると、数百年前と何一つ変わらない光景を目にすることができるという、類いまれな機会に恵まれる。まるで太古の昔を垣間見るかのようだ。あなたの、そしてわれわれの周りの世界がこれほどの変化を遂げているさなかにこんな光景を見られるなんて、これほどの特権はない。

 行って見るに値する素晴らしいものだ。機会がある人にはぜひ勧めたい。

(c)AFP/CARL DE SOUZA

 毎年行われるヌー(ウシカモシカ)の群れの大移動を撮影するのは、今年で2度目だ。ヌーは毎年7月ごろ、タンザニアのセレンゲティ(Serengeti)を出発してケニアのマサイマラ(Masai Mara)国立保護区へ向かい、8月ごろ川を渡る。9月になると再び川を渡ってセレンゲティへ戻る。

 今年はマサイマラに4日間滞在し、ヌーの群れがセレンゲティへ帰る様子を撮影した。公営キャンプ場で野営することにしたので、私設キャンプ場のように森林警備員を雇う必要はなかった。そのおかげで大きな自由が得られた。好きな時に行って帰り、誰にも何の世話にもならなくて済んだ。

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 それに私は個人的にも、自然の中でキャンプするのが大好きだ。自然に交ざって動物と一緒に暮らしているような気分になれるのがいい。非常に素朴でありながら、わくわくさせてくれる何かがある。

 夜テントで寝ていると、近くでライオンが狩りをしている気配を感じる。ハイエナもいる。そんなふうに一人きりでいると、後から孫に話してやれそうな冒険ができる。この点については、また後で書こう。

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 一人でキャンプすれば経済的でもある。しゃれたロッジに泊まれば、結構な出費になる。私はケニア在住なので、利用料も一般より安い。だから法外な野営費になることはまずない。

 それに、ケニア周辺でのキャンプはもう何度も経験しているから、大自然の中に一人でいても苦にならず、銃を携帯した警備員が同行していなくても不安でたまらないということもない。

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 私の一日は朝5時過ぎに始まる。起きて火を消し、全機材をまとめて車に乗り、ドライブに出る。この大移動取材の鍵になるのは、群れが川を渡る様子を捉えることだ。劇的なショットが期待できるし、川の中にはヌーを待ち構えているワニもいる。

 ヌーが川を渡る主な地点は把握している。だからそのうちの一つへ車を走らせ、ひたすら待つ。ヌーが群れを成している場所は見えるが、実際に移動している姿を捉えるためにはかなり運転しなければならないし、運も要る。どこかで群れているのが見えても、川を渡るとは限らないからだ。

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 ヌーは非常に臆病で、最も知的な動物とはいえない。この点については、動物愛護家だって異論はないはずだ。ヌーはそこまで賢くない。水際で大渋滞を引き起こし、1頭が前進してようやく他が続くということもある。ただ集まるだけ集まって誰も前に進まず、再びばらばらになってしまうこともある。時には、ワニを見つけるのが得意なシマウマについて行くものもいる。

マサイマラ国立保護区にて(2015年撮影)。(c)AFP/CARL DE SOUZA

 アフリカのこの地域には毎年多くの観光客が訪れ、国立公園の欠かせない収入源となっている。ほとんどの観光客は問題ないが、一部の人々にその日一日を台無しにされることもままある。私がキャンプをして撮影に臨んでいたのは、野生動物の保護区であるマサイマラ側で、こちらは管理がより行き届いていて車両も少ない。これに対し対岸の方は、あちこちに観光客の車が目立ち、動物園さながらだ。

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 その上問題なのは、これらの観光客の多くが最初で最後のサファリ体験だというつもりでやって来ているという点にある。皆非常にはしゃいでいて、できるだけたくさんのものを見たいと思うのももっともだ。だからこそ、あらゆる場所へ連れて行ってほしいと依頼する。

 その興奮や、はやる気持ちは理解できる。だが皆に分かってもらわなくてはならないのは、大半の場合は我慢すれば報われるということだ。その点をもう少し認識すれば、より多くの喜びが得られ、恐らくはより多くの野生動物を見ることにもつながるだろう。劇場へ芝居を見に来たわけではないのだ。時にはひたすら待たなければならない。

 ヌーの群れがやって来て川を渡るまで、1か所にとどまって炎天下で5時間も待つことほどいらいらすることはない。それなのにやっとという時になって、観光客を乗せた大きなトラックが群れの背後に乗り付ける。スピードが速過ぎて、ヌーたちは皆怖がってしまう。当然、川渡りの瞬間はまたしばらくの間やって来ない。

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 今年はワニを撮影しようと決めていた。辛抱さえできればさほど難しくはない。ヌーが川を渡るのを待つワニは、12頭もいた。

 マサイマラで見られるワニは本当に巨大だ。スーパーワニと言っていい。それもそのはず、ヌーの大移動のたびに、餌の方から大挙してやって来てくれるのだから。しかもここのワニは100歳まで生きられる。食べては太り、また食べては太りの繰り返しだ。

 私は今年、ワニがヌーを攻撃している様子を一連で捉えることができた。ワニの大きさが際立つショットだ。1頭ののんきなヌーが川岸まで来て腰を下ろした。ワニが水中を移動して接近。ヌーはまだ動かなかった。ワニがついに水中から顔を出してヌーに飛びかかったが失敗、ヌーは逃げた。

 ところがそのヌーはまた戻ってきた。今のは何だったんだとワニの様子を見に来たのだ。ワニは再び襲い掛かったが、今度も逃した。それでも私は巨大なワニが水中から飛び出す非常に良いショットを何枚か撮ることができた。あんな大きなワニを見られて本当に良かった。

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 それからトムソンガゼルも撮影した。ガゼルたちが水際に下りて来るのを見て、私は「駄目だお前たち、ひどい目に遭うぞ」と思った。ガゼルたちは川岸で足を滑らせ、何頭かは向こう岸によじ登ることができず、川を泳いでいた。そこへワニが襲い掛かった。格好のおやつをひょいと放り込んだようなものだった。

 ドラマチックな写真が撮れた。目の前で撮影できたので、ワニの口に入ったかわいそうなガゼルがしっかり見える。そしてワニの口からガゼルの足が1本突き出しているラストショットからは、これらの巨大ワニがいかに大きいかを感じてもらえると思う。

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 私が注目していたのはヌーだったが、周囲のそれ以外のものも撮影した。熱気球にライオン。私の冒険心をかき立ててくれる。

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 ヌーたちはいつだって信じられない行動に出る。ライオンは、まるでお菓子屋さんに入ったようなものだ。ライオンにとってはヌーを殺すことなど朝飯前なので、殺しはしても食べるとは限らない。道端には非常に多くのヌーの死骸が転がっている。ここのライオンは餌に恵まれている。ヌーが大移動をするたびに、ほぼ確実に食べ物にありつけるのだから。

(c)AFP/CARL DE SOUZA

 夜には、ライオンがテントの周りでうなったりほえたりしているのが聞こえた。そこまで心配もしていなかった。第一、ライオンは食べ物には苦労していない。周りにヌーがたくさんいるのに、わざわざテントの中にいる私を襲う必要もない。それに、キャンプ場には食べ物を絶対に放置しないよう常に気を付けている。夜間はアイスボックスを車中にしまっておく。ライオンたちは恐らくただ狩りに興じているか、何らかの動物を殺したばかりなのだろう。

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 ある朝、私は起きてテントのジッパーを開けた。テントから出る前には必ず、警戒して周りを確認するようにしている。その朝はオスのライオンが草むらの中にいるのが見えた。ただ歩いているだけだったが、安心できるだけの距離が保てず、近過ぎる気がした。そこで私は車に乗り、ライトをつけ、ライオンが去るまでエンジンを吹かし続けた。その間、写真を撮ることは忘れなかった。

 良いショットを撮らせてくれたのは、マサイマラのレンジャーたちによく知られている1頭のライオンだった。名前は「スカーフェイス(Scarface)」。傷のある顔という意味で、確かにそのライオンの顔には傷があった。いつまでも完全に癒える様子のない傷だ。スカーフェイスは、そこでは間違いなくスターだった。

 この仕事は本当に楽しかったと認めざるを得ない。長時間待たされ、車に乗り続け、日の出から日没まで働き詰めで本当に疲れる。常に準備を万端にして気を張っているから、しまいには疲労困憊(こんぱい)する。それでも、素晴らしい光景を見ることができる。

2015年の大移動で川を渡るヌーの群れ。(c)AFP/CARL DE SOUZA

 もちろん、ここは管理された保護区だ。観光客を乗せたトラックも多く走り回っている。それでも、目の前に広がっているのは何十万年前にも同じように見えた景色かもしれない。まさに特権だ。(c)AFP/Carl De Souza

(c)AFP/CARL DE SOUZA

このコラムは、カール・デ・スーザ(Carl De Souza)カメラマンが、AFPパリ(Paris)本社のヤナ・ドゥルギ(Yana Dlugy)記者と共同執筆し、2016年9月19日に配信された英文記事を日本語に翻訳したものです。