【10月3日 AFP】先月末に激しい空爆に見舞われたシリアのイドリブ(Idlib)で、がれきの下から救い出された生後4か月のワヒダちゃんが、か細い泣き声をあげた時、救助隊員は思わず涙ぐんだ。だが、この空爆はワヒダちゃんの一家に悲劇をもたらした。

「空爆が始まった時、私は店の中にいました」。29日の空爆の様子を、ワヒダちゃんの父親イェヒヤ・マートゥク(Yehya Maatouq)さん(32)は空爆で破壊されたイドリブ北西の自宅跡で冷静にAFPに語った。「空爆の直後、走って家に戻ると自宅の周辺はめちゃくちゃな状態でした。家を捜したが誰も見つからなかった」

 だが突然、2階建てだった自宅のがれきの下からマートゥクさんの妻のかすかな声が聞こえてきた。「あちこち見回し大きな石を持ち上げると、その下に妻の顔があった」。マートゥクさんは妻の周りのがれきをどかし始めた。幸い彼女は意識がありマートゥクさんに話しかけていたという。

 続いてマートゥクさんは市民の人命救助部隊「ホワイト・ヘルメット(White Helmets)」の隊員たちと必死で2人の娘、生後4か月のワヒダちゃんと3歳のシナールちゃんを捜した。「寝室のがれきをどけていたらワヒダの手が見えた。手を伸ばすと娘が私の指をつかんだんです」

 ホワイト・ヘルメットの隊員たちがワヒダちゃんの上にあった大きなコンクリート片を数個をどかせ、マートゥクさんはワヒダちゃんの小さな体を引っ張り上げた。ワヒダちゃんは無事で、その後病院に搬送された。

 ホワイト・ヘルメットが投稿した救出時の画像には、破壊された住宅跡から隊員が砂まみれの黄色い服を着た赤ちゃんを抱いて出てくる様子が捉えられている。隊員は涙ながらに「がれきの下から彼女を救い出すのに2時間かかった。生きていてよかった」と語った。

 しかしこの空爆で、マートゥクさんの家ではワヒダちゃんの姉シナールちゃんと、マートゥクさん自身の母親が死亡し、マートゥクさんは嘆き悲しんでいた。「もう一人の娘は壁の下敷きになって死んでしまった。彼女以外なら、全てを失っても構わないのに」。マートゥクさんはかすれた声でAFPに語った。

 ワヒダちゃんは額にかすり傷やあざはあるが、おとなしく父親の腕に抱かれて黒い瞳で空を見上げている。将来の望みを尋ねられ、マートゥクさんはため息をついた。「それは神のみが知ることです。私たちはこれまでに起きたことにも対応できないのだから」(c)AFP