【9月25日 AFP】セックスや生々しい暴力描写はほぼご法度だが、ロシア人のお尻がちらりと見えるくらいはお目こぼし。インドのボリウッド(Bollywood)映画は大歓迎する一方、米国のハリウッド(Hollywood)映画は完全に締め出す──北朝鮮が5回目の核実験を実施し世界を激怒させた翌週に平壌(Pyongyang)で開幕した第15回「平壌国際映画祭(PIFF)」が23日、幕を閉じた。

 正式名称を「非同盟および発展途上国の平壌映画祭(Pyongyang Film Festival of Non-Aligned and Other Developing Countries)」という平壌国際映画祭は1987年に第1回大会が開催され、1990年以降は隔年で開かれている。2000年以降には英国映画やフランス映画など出品作の受け入れ国も徐々に拡大してきた。

 それでもカンヌ(Cannes)やベルリン(Berlin)といった世界的な映画祭とはまるで別世界の映画祭だ。作品の選考過程は不透明で、決定権は各国から招かれた国際審査員ではなく北朝鮮国内の映画配給を統制する「朝鮮映画輸出入社(Korea Film Export and Import CorpKorFilm)」が握っている。

 KorFilmのキム・ジェヒョク(Kim Jae-Hyok)副理事はAFPの取材に「映画祭の使命である自主、平和、親善を反映していること」を選考基準にしていると説明し「他国を批判するような映画は選ばない」と語った。

■参加の動機は強い好奇心

 平壌国際映画祭は表向き、世界中の映画作品に門戸を開いているように見える。だが明確な例外がある。米国と韓国だ。両国の映画は一度も上映されたことがない。KorFilmのキム副理事は「韓国や米国などの敵対国は、わが国に制裁を科し文化交流を望んでいない」と話す。現在の緊張した外交状況を鑑みれば米韓映画の禁止が解かれることは当面ないだろう。

 一方、平壌映画祭の映画出品者たちは多くが、世界で最も「それっぽくない」映画祭への強い好奇心が主な参加動機となっているようだ。

 ナチス(Nazis)によるユダヤ人からの芸術品略奪がテーマの映画を出品したフランス人監督、フランソワ・マルゴラン(Francois Margolin)氏は「トロント映画祭に出品してもよかったが、そこで出会うのはいつも同じ顔ぶれだ。だからこちら(平壌)に来る方を選んだ」と出品の動機を語った。海外からの作品に対して北朝鮮の人たちがどんな反応をするのかにも興味があったという。「北朝鮮は火星ではないからね。テクノロジーの進歩が外の世界を供給し続け、それに対する興味がここ(北朝鮮)の人たちの間で強くなっている」と語った。

 北朝鮮の映画館で洋画が上映されることは、平壌映画祭を除いてはほとんどない。テレビで放映される外国映画も、ほとんどが中国か旧ソ連時代の数十年前のものに限られている。しかし近年は外国映画の密輸DVDやUSBメモリーの闇市場が盛況で、平壌のような都会の住民は自宅のプレーヤーでこっそりとハリウッド最新作などに触れる機会が増えている。

■一瞬の「お尻」にくすくす笑いも

 他国の国際映画祭とは異なり、平壌映画祭の審査員5人は期間中の公開上映には姿を見せない。出品作品は個別にプライベート上映で鑑賞する。審査員の1人で中国・北京(Beijing)を中心に活動する英国人のマット・ハルス(Matt Hulse)監督はその理由を主催者側に尋ねたところ「観客の反応が審査に影響しかねない」と言われたという。

 今年の平壌映画祭では20か国の60作品が上映された。このうちメイン・コンペティション部門で取り上げられたのは英国、ポーランド、ロシア、北朝鮮などの12作品。グランプリの「たいまつ賞(Torch Award)」には、孤児たちの世話に尽くす女性を描いた北朝鮮映画『わが家の物語(The Story of our Home)』が輝いた。 

 選考にあたっては「協力」や「逆境に打ち勝つ」といった共通のテーマが考慮され、ハルス監督によれば「性的な内容が含まれないこと」は暗黙の了解となっている。

 しかしアフガニスタンとタジキスタン国境に駐屯するロシア兵らを描いた『静かな国境哨所(Frontier Post 'Serene')』では、兵士たちの入浴シーンで一瞬だが裸の臀部(でんぶ)が映る。この場面で女性観客たちは、口を手で抑えながらくすくす笑い出したという。「あれは、かわいらしかったね」とハルス監督は語った。

 一方、全体の出品映画数は昨年から減っており、外国からの代表団らは北朝鮮が1月6日と今月9日に核実験を実施したことで国際的な制裁が強化され外交的孤立が強まったためだろうとみている。(c)AFP/Giles HEWITT