■2度の自殺未遂

 冒頭のミス・サハラさんは、胸元が大きく開いたクリーム色のドレス姿でランウェイを堂々と歩いた。彼女の明るいグリーンの瞳に300人超の観客はくぎ付けになった。

 それは、10年以上前にナイジェリアから英ロンドン(London)へと逃れた「19歳の少年」の頃とは全く違う姿だった。

 サハラさんは小さい頃から、自分は女性だと認識していた。だから化粧をしたし、母親のハイヒールを履いた。

 しかし、同性愛や性転換が違法とされ、14年間の禁錮刑を命じられることもあるナイジェリアで、彼女が生きるのは容易ではなかった。

「街の通りで悪口を浴びせかけられたり、嫌がらせを受けたりするのはしょっちゅうだった。家に帰っても、家族から『お前は間違っている。男のように振る舞え』」と言われた」(サハラさん)

 2度も自殺を図り、女性の服装をしていたことを理由に投獄された経験もあるサハラさんは「ナイジェリアで生きていけるとは思わなかった。だから国を出るしかなかった」と振り返る。

 最初は不法移民として、そして次は難民としてロンドンへ逃れた。

 彼女は英国で性転換手術を受け、大きな胸と厚い唇、長いブロンドヘアの女性に生まれ変わった。モデル、歌手として働きながら、トランスジェンダーを支援する非政府組織(NGO)の運営にも携わっている。

 とはいえ、独ベルリン(Berlin)に本部を置くNGO「トランスジェンダー欧州(Transgender Europe)」によれば、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー)など性的少数者はいまだ約80か国で迫害されているのが実情だ。2006年以降に殺害されたトランスジェンダーの人は2000人余りに上っている。

「私たちの人生はチャンスとほとんど無縁。あったとしても本当にわずかなもの」と、コンテスト創設者のウェルズ氏は語っている。(c)AFP/Daniel BOSQUE