【9月6日 MODE PRESS】漫画家の安野モヨコ(Moyoco Anno)の個展「『STRIP!』PORTFOLIO 1996-2016」が1日、池袋でリニューアルオープンしたばかりのパルコミュージアムにてスタートした。安野は『ハッピー・マニア』、『働きマン』、『さくらん』といったヒット作を持つ人気作家。本展ではその華々しいキャリアから選りすぐりの原画を展示するほか、同時刊行の作品集が先行発売されている。

 会場入口では、女性のヌードイラストに、脱ぎ捨てられたピンクのコルセットを合わせてディスプレイ。『働きマン』には巨大な雑誌、『さくらん』には金屏風が組まれるなど、ストーリーと連動した演出が魅力だ。そのテーマパークのような空間について「アートディレクターの吉田ユニ(Yuni Yoshida)さんが作品の世界観にあわせて考えてくれた」と安野は楽しげに説明する。

展覧会会場の入り口(2016年8月31日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

 過去20年の作品数は膨大だ。年表を見ると、あまりに多くの作品が発表されていることにあらためて驚かされる。安野自身も過去を振り返り、「がんばってたな、と思った(笑)」と率直な感想を語る。長年トップを走り続けてきた漫画家ならではの濃度だが、「今まで絵が汚いとか雑だとかずっと言われていたから、まさか自分が絵の展覧会を開いてもらえるようになるとは思ってもいなかった」と本人も感慨深げだ。

雑誌編集者を主人公にした『働きマン』の展示風景(2016年8月31日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

■なんでもないことがハッピー

 社会現象となり、ドラマ化もされた『ハッピー・マニア』や『働きマン』のインパクトはいまだに根強い。愛や仕事を追い求める主人公たちの疾走感ある作風が「安野モヨコ」のイメージと定着してしまった部分もある。だが2008年、安野自身は過労による体調不良で『オチビサン』以外の連載をストップ。それから5年間、思うように働けない苦しい期間が続いた。

 そんな安野にとって「続けるために休む」ということが大事になったのは言うまでもない。「以前は夜中の12時を超えようと原稿が終わるまでやるというスタイル。自分がボロボロであろうとなんであろうと知ったことか! くらいの気持ちでやっていたけど(笑)今は夕方6時になったら、終わってなくても休む。自分の身体のほうにあわせたペースで、自分の疲労感を無視しないように訓練した」

 さらに都内から鎌倉に移住したことで、ライフスタイルも変わった。「今はなんでもないことが幸せというか、当たり前に暮らせること、たとえば蛇口をひねったらお水が出てきたり、ベッドが気持ち良かったりとか(笑)そういうことを一つひとついいなと思える」

描きおろしのイラストも展示されている(2016年8月31日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji

 2013年に、8年ぶりとなったストーリー漫画『鼻下長紳士回顧録』で完全復帰。20世紀初頭のパリの娼館を舞台にした装飾的で退廃的な世界は、安野の新境地となっている。「忙しく描いていたときはどちらかと言うと、流行や今感じていることをすぐ出すということをやっていた。だけど『鼻下長~』の場合は醸造させてから出す、みたいな感覚。絵もストーリーも両方とも一回寝かして、すぐ描かない。年とともに漫画の描き方が変化したと思う」

新連載『鼻下長紳士回顧録』の展示風景(2016年8月31日撮影)。(c)MODE PRESS/Fuyuko Tsuji